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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-83


「ま、まあ、いいや…で? キミ、えっと…ふぇぐ…」
「フェグラインです」
「ああ…フェグラインは、どうしてここに? 姉さんに何か命令されたのか?」
「否定《verneinen》。コトハからの起動コードは受信しましたが、サトシの下への出頭はコトハの命令ではありません」
「じゃあ、どうして」
「フェグラインの根幹に根ざす設定として、サトシがマスターとして登録されています。故に、起動後、独自の判断で接触を図りました」
 再び堕ちる沈黙。
「ま、マスター…って…俺が?」
「肯定」
「ちょ…っ!! ちょっと待ってくださいよ!? ナイトさん!!」
「KY-05からフェグラインへの強制介入許可は設定されていない」
 鎧の擦れ合う音と共に立ち上がると、やはり感情の無い声音で返すフェグライン。
「琴葉様からの起動コードを受け取ったと言う事は…!! それはつまり、琴葉様に呼び出されたって事じゃないんですか!?」
 ヘクセンは、自らの経験から来る危機感によって叫んだ。
「否定はしない」
 しかし、対するフェグラインはサラリと答える。
「どっ…どうして平然とこんな所で油を売ってられるんですか!? ま、まさか、あ、アレですか!? 琴葉様を舐めてらっしゃる!?」
「コトハはフェグラインの製作者ではあるが、『それ』以上に、サトシの方が重要だと判断した」
 琴葉を、涼しい顔で『それ』呼ばわりするフェグラインの言い様に、体感温度がグッと下がった三人。
「…知らないと言うのは…もはや、罪ですね」
 妃依は言い様の無い寒気を感じて、腕を組みながら呟いた。
「ともかく!! こんなのがここに居たら!! 私達がここに居るという事が、いつ!! 琴葉様にバレるか解りませんよッ!?」
 ヘクセンは、それが一番マズイとばかりに、妃依の肩を掴んで訴える。
「…確かに…散歩なんて、してる場合じゃないですね…」
 折角、先輩と一緒に散歩を楽しもうとしていたのに…いつも、寸でのところで邪魔が入るのは、どちらかが何かに呪われている所為ではないか…妃依は、げんなりとそう思った。
「心配は無用。元マスターとKY-05に用は無い。散歩を続行されたし」
「えっと…? と言う事は、俺には用がある、のかな?」
「肯定。サトシは、フェグラインにとって重要度の高い対象の中でも、最上位の存在です」
 スッと真っ直ぐな視線と言葉を向けられ、聡は、己の欲望を包む理性の垣根にヒビが入った音を、確かに聞いた。
「グゥッ…落ち着け俺、相手は機械だ、ときめくな…落ち着け俺、相手は機械だ、ときめくなァ…ッ、黙れハート!!」
 手で顔面を押さえた聡は、呟くにしては大き過ぎる声で自分に言い聞かせた。
「…先輩…あからさまに、うろたえないでください」
 妃依は言いながら、少し背伸びをして、聡の後頭部に水平チョップを喰らわせた。
「だはぉッ…い、いきなり何をするのかね!? 妃依クン!!」
 後頭部を擦りながら振り返り、定まらないキャラで抗議する。
「…何と言うか…色々と鬱憤が溜まっていたので…つい」
 微妙に悪戯な笑みを浮かべながら、悪びれもせずに言う。
 ――と、
「警告《Warnung》。元マスター、シシド・ヒヨリ、それはサトシへ対する害敵行為と見なします。直ちにサトシの周囲3m以内から離れてください。従わない場合、あらゆる手段を用いて排除します」
 刹那、フェグラインは妃依へと黒槍の切先を向けると、全く冗談の欠片も無い様子で鋭く言い放った。
「…ちょ…何の真似ですか…これは」
 まるで悪夢の様に宵闇から溶け出た、全く光を返さない黒槍を目前にして、僅かに引いて身を強張らせる妃依。
「真似《falsch》ではありません。真実《wirklich》です」
 一瞬、空気の流れが止まった。


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