投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

非線型蒲公英の最初へ 非線型蒲公英 155 非線型蒲公英 157 非線型蒲公英の最後へ

非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-82


 ――すると、
 バチッ
 何も無い筈の空中で、ラドシュパイヘは鋭い音を伴った雷光によって、あさっての方へと弾かれてしまった。
「なっ…」
「…え…」
 本当に『何か』が居る…と、聡と妃依は各々強弱の違いこそあれ、驚愕の表情を同じくした。
「弟様の言う通り!! やはり!! 何か居るようですネェ!? …一体全体、ドコのドイツですかッ!?」
 もしかして、今、自分は最高に輝いている!? …と、ヘクセンは調子に乗りつつ、外面だけは引き締め、怪しげな宙に向かって問うた。
『――広域殲滅兵装試験運用機体――』
 その空中から、まるで、扇風機越しに聞く声の様に、微妙なノイズの入った声が聞こえてきた。
『――型式番号KY-06-P――Vo:glein」
 徐々にノイズが薄れて行き、完全にノイズの消えた頃――忽然と、その『黒騎士』は姿を現していた。
「起動後の最優先タスク、ユサマ・サトシとの接触」
 腰程まである黒髪をなびかせ、漆黒の西洋鎧に身を包み、左手には黒塗りの槍を持った『黒騎士』、フェグラインは、現れた時の直立不動の姿勢のまま、その銀色の眸だけを、音も無く聡へと向けた。
「初めまして、サトシ」
 ガシャ、と鎧を鳴らし片膝を着いたフェグラインは、恭しく聡へと頭を垂れた。
「…えっ…!? あっ、ああ…は、初めまして」
 謎の人物の突然の登場に、唖然としていた聡は、自分が話し掛けられている事に気が付き、取り合えず挨拶を返した。
「現時刻を以って、フェグラインはサトシの指揮下に入ります。どうぞ、命令を」
「KY-06の…えーと、ナイトさん!! いつ起動したんですか!? …と言うか!! 何故にこんな所に!?」
 ラドシュパイヘを伸ばした格好のままのヘクセンは、フェグラインに向かって動揺混じりの叫びをぶつけた。
「KY-05へ対する説明の必要性は、皆無」
 聡に頭を垂れた姿勢からピクリとも動かず、声だけを返す。
「…誰…と言うか…あなたはヘクセンさんと同じ、ロボットなんですか」
 幸か不幸か、こういう事態に対しての免疫が付きまくっていた妃依は、落ち着いて話し掛けた。
「肯定《bejahen》、『元』マスター、シシド・ヒヨリ」
 一瞬、場に沈黙が下りる。
「ま、マスター? 元?」
「…どういう、意味ですか…それ」
「以前、フェグラインの中枢が『携帯型超距離衛星経由電話一体型万能魔法ステッキ』に内蔵されていた時点でのマスター、という意味です」
「…で…どういう事なんですか…ヘクセンさん」
 説明されても要領を得なかった妃依は、事情を知っていそうなヘクセンに再度問い掛けた。
「ああ…ッ!! 私の中枢から取り出された、ガイダンス用独立型AI!! アレは不要になったから排除したのではなくて!! ナイトさんの中枢にする為に取り出したのですか!? 何と!!」
 しかし、ヘクセンは問い掛けに答えるのではなく、自分に言い聞かせるようにして叫ぶ。
「…だから、どういう事なんですか…」
「つまり…!! このナイトさんの正体は!! 私が仮の姿だった時に、私のアシストをしていた愛想の無い電子音声なのですよ!!」
「…ああ…あの時の…」
 琴葉によって肝試しをさせられた夜の事を思い出す。あまり良い思い出ではなかったが。
「え? どの時?」
 その時、姉によって拉致されていたが為に心当たりの無かった聡は、当然の様に後輩に問うた。
「…先輩には関係の無い話です…」
 自分にとっての『黒歴史』である、あの一件は、決して先輩にはバラすまい…そう固く誓っていた妃依は、会話の流れを寸断した。


非線型蒲公英の最初へ 非線型蒲公英 155 非線型蒲公英 157 非線型蒲公英の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前