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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-8


「まあ、そりゃそうだけどな…で、ひよちゃん、ヘクセンにでも聞いたの? ここの場所」
「…あ、はい…そうですけど」
「って言うか、ヒントのお姉さん、家の前まで付いて来てたよね」
「なんですって…? ヘクセンがサリィを置いて家を離れていたというの? そうなのね、妃依」
 琴葉の表情が微妙に昏い方向に歪んだ。
「…え、そ…そうです、ね…」
 ヘクセンさん、御免なさい。妃依は、せめて心の中で謝った。
「バージョンアップしてあげたからといって、調子に乗っているようね。いい度胸だわ…フフ…」
 帰ったら凄い事になるんだろうな…と、妃依は確信していた。
「ああ…それより、そろそろトランプも飽きたな」
 聡が『飽きた』という時は、大抵が大負けしている時である。と言うか、何をやっても大負けするのが常なので、大概のゲームは聡によって終了の合図がかかるのであった。
「じゃ、私と二人きりで遊びたいんだね」
 冴子が聡の太腿に手を這わせながら耳元に囁く。この人はこういう事を、何の前触れも無く言って来るから怖い。
「やや、止めてくださいよ、冴子さん!!」
「…」
 妃依は、何かを言いたそうな視線で聡を見つめた。表面には微塵も出ていないが、確実に怒りの波動を感じる。
「あら…フフ、聡も災難ね」
 妃依の様子を見て、琴葉はとても嬉しそうに微笑んだ。
 と、場の空気がどんどんおかしくなってきたその時、
 ぴんぽんぴんぽんぴん、ぽーん…。
 家中にドアベルの音が響き渡った。
「またお客さんかなぁ」
 とてとて、と玄関へと向かう悠樹。この家では、冴子が玄関で対応する事は滅多に無かった。冴子がする事といったら料理くらいで、後の事は殆ど悠樹の担当だった。ある意味、この辺の性格も琴葉に受け継がれていると言える。
『どちらさまですかぁ…あっ、伯父さんと伯母さん!! お久しぶりですねぇ!!』
 その一言で、リビングに居た四人中三人の動きが凍りついた。
「…伯父さんと、伯母さん…ですか」
 その中で唯一動く事が出来たのは、当然、意味を理解していない妃依だけだった。
 ふと、琴葉の方を見た妃依は、驚愕してソファーから転げ落ちて、それでも足らずに後退ってテレビに頭をぶつけた。痛みなど気にならなかった。何故なら…、
「うっ、嘘…よ…あの二人が、ここに来るわけが…ないわ」
 琴葉が、今までに見たことも無い様な表情で、心底怯えていたからである。
「…どど、ど、どうしたんですか…こ、琴葉先輩…」
 傍目から見たら、妃依こそどうした、という状態であったが、それ位、今の琴葉は異常だった。
「はっはっは、久しぶりだなぁ、琴葉、聡。父さんだぞ、覚えてるかい? 冴子君も、久しぶりだねぇ」
 異常な程に朗らかな笑みを湛えた男性が、リビングに入ってきた。
「け、賢治義兄さん…お久しぶり」
 先程までの勢いなどまるで霧散し、冴子はおずおずと呟いた。
「あーん、冴子ぉ…ホントに久しぶりねぇ!! おっきくなって…もー、お姉ちゃんは感動よー」
 賢治と呼ばれた男性の後ろからは、変な雰囲気の女性が現れ、急に冴子に抱きついてしまった。
「と…董子姉さん…苦しいよ」
 この世で一番苦手なモノである姉に抱きしめられ、冴子は失神しかけていた。
「ぼ、ボケ夫婦…何しに来たんだ…?」
 急な展開だったので、聡は、仮にも両親に対してそう問い掛けた。
「母さんが冴子君に会いたいって言うもんだから、父さん達、フランスから飛んできちゃったよ」
「そーなのよー、急に冴子の顔が見たくなってー、もう、居ても立ってもいられなくなっっちゃってー」
 とんでもない事を口走ったぞ、このボケ夫婦…。聡は、頭を抱えて唸った。
「い、今、フランスって言ったのか…? まさか、海外に住んでたのか? 今まで」
「そうだよ、聡。母さんに『フランスってどんな所なのー?』って可愛く言われてなぁ、お父さん、思わずフランスに家を建てちゃったよ」
「やだぁ、あなた…恥ずかしい」
「もっと考えて行動しろよ!!」
 聡のつっこみは、いつにも増して冴え渡っていた。


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