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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-6

 悠樹の言ったとおり、琴葉はソファーにだらしなく寝そべっていた。暇を持て余していると態度が語っている。
「あら、妃依じゃない。どうしたの? こんな所に来るなんて」
 琴葉は、新しい玩具を見つけた子供のような目で妃依を見上げた。
「…いえ、別に…何となく、です。何となく」
 実のところ妃依は、何で来てしまったのだろうか、と先程から自問自答を繰り返していた。答えは全く出てこなかったが。
「ふぅん…そうなの」
 意味あり気な笑みを浮かべ、琴葉は納得した(真意はどうだか知らないが)。
「ひよちゃんが来てくれたから、これで暇を潰せるね、琴葉姉さん」
「そうね、二人だと何をやっても、つまらないものね」
 この二人は、ここまで暇になる程、今の今まで何をしていたのだろうか。それが気になった。
「…あの、何をしていたんですか、二人で」
「ええとね、ジャンケンとか」
「あとは、ポーカーかしら」
 この人達は生粋の『将棋部』だ…と、妃依は呆れるより先に尊敬してしまった。思えば二人とも将棋部部長なのである。こういうヒトしか部長になれないのなら、来年は誰が部長になるのだろうか…妃依は先へ対する幾ばくかの不安を抱いた。
「…私も、それに参加しないといけないんですか」
 妃依はいよいよもって、自分がここに来た理由を見失いつつあった。
「そうしてもらえると、選択の幅が増えるのよね」
「まずはババ抜きしたいなぁ」
 余りに不毛だった…ついていけない。
「…そう言えば、聡先輩は、どこに居るんですか」
 何となく聞いてみたのだが、言ってからよく考えてみると、まずこれを聞くべきだったと思う。
「聡? ああ、上で叔母様と戯れてるわ」
 上…? 何故二階に居るのだろうか。しかも、叔母に当たる人と二人きりで…。
 言葉には出来ない、チリチリとした焦燥感の様なモノが妃依の脳裏をよぎっていた。
「…何を、してるんですか、上で」
 思わず聞き返していた。
「んん、それは、妃依の情操に悪影響を及ぼしそうだから割愛させてもらうわ」
「…な、何ですか、それ」
 嫌な予感は予想以上になって跳ね返ってきた。
「お母さん、聡君の事大好きだから、いつも二人っきりで遊んでるんだよね」
 確定。最早、疑う余地無し。とんでもない事になっている。
「…どうして、そんな事に」
「まあ、いつもの事よ…そろそろ、聡が逃げ出してくる頃だわ」
 と、琴葉が口にしたとたん、
『うわあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! ほんと、勘弁してください!!』
 聡のものらしき悲鳴と、ドタドタと階段を駆け下りて来る音が聞こえた。
 刹那、リビングのドアが勢い良く開かれた。
「…せ、先輩」
 妃依は聡の姿を見て、絶句した。
 上半身裸で、身体の所々に口紅が付着している。下はトランクス一枚。何があったのかと聞く事すら馬鹿馬鹿しい程にそのままな姿だった。
「ひっ、ひよちゃん!? 何でひよちゃんが!?」
「…ええと、とりあえず、服、着てください…見ていて痛々しいです」
「はがっ、ご、ごめん!!」
 聡は慌てて風呂場の方へ駆け出していった。
 と、それに合わせて、二階から妃依の見知らない人――恐らく、悠樹先輩のお母さん――が下りてきて、リビングに姿を現した。
「あれ…聡クンは? 下りてこなかった?」
「…っ…」
 こっちはこっちで凄い格好をしていた。まず、乱れた衣服。さも、引っ掛けただけと言わんばかりに、下着が見えそうな程の乱れっぷりだ。そしてやけに上気した顔。どんな『遊び』をしていたのやら…。
「ん? キミは…見かけない顔だけど、どちら様?」
 妃依に気が付いて、冴子は問い掛けた。
「…えっと、私は…悠樹先輩達の後輩で、宍戸妃依と言います」
 妃依は妙な気迫に気圧されて、控えめに答えた。


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