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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-59


「な、何する…んですかっ…し、死ぬかと…思った…!!」
 聡は、息も絶え絶えに言葉を紡いだ。
「ふふふ…面白い冗談ですね。既に死んでらっしゃるじゃないですか、聡さんは」
「そういう…問題じゃ無い…ですって!!」
「では、『向こう』でお休みになられます? ああ、それが良いですね」
 さも嬉しそうに手を合わせて提案する。
「い、嫌ですよ…!! 向こうって…向こう岸ですよね!?」
「吉祥さん、聡さんを運んでもらえますか?」
 未だ、身体を動かすことも適わない聡の抗議は、茉莉の耳を虚しくスルーした。
「あ…そろそろ仕事に戻って、子供達を見張らないといけないんで…」
「吉祥さん」
 吉祥は、茉莉に背中から声を掛けられ、肩をビクリと震わせて立ち止まった。うっすらと顔や背中が汗ばんでいる様に見える。
「な、なんすか…? オレは、その、仕事が…っすね…」
「またまた…吉祥さん…ふふふ…」
 動けずにいる吉祥の視界の右端から、行く手を阻むようにして、すっ…と、音も無く大鎌の刃が現れた。
「ままま茉莉さん…!? か、鎌!! 鎌が…!!」
 見事に声を裏がえらせ、身を仰け反らせる吉祥。しかし、後退るにつれ、刃も付いて来る。
 トン…と、吉祥の背中が茉莉の身体に軽くぶつかった。同時に、寸での所で刃の動きも止まる。
「吉祥さん、どうしたんですか? 仕事があるんじゃないんですか?」
「いいい、いや、その…別に、ちょっと位なら…仕事サボっても、だ、だいじょぶっすよ…? は…ははは」
「そうですか? じゃあ、お願いしますね」
 次の瞬間、まるで何かの手品の様に、大鎌――茉莉曰く、妖刀『凶忌守魂狩』――は忽然と消えていた。
 それを確認した吉祥は、全身から滝の様な冷や汗を流ながら、両手と両膝を地に着き、震えた息を吐いた。
 倒れたままで、その一部始終を見ていた聡は――ああ…もう俺は死ぬんだな…――と、他人事の様に完全に絶望し切っていた。

非線型蒲公英 =Sommer Marchen= No.12


 食事の準備も滞り無く終了し、居間のテーブルに夕食を並べていた妃依は、ようやく異変に気が付いた。
「…それにしても、聡先輩、なかなか来ませんね」
「そう言われてみれば、確かにそうだな。いつもであれば、そろそろ自ら復活してきそうなものだが」
 未だに巫女服姿で給仕をしていた美咲も、妃依の言葉に同意した。
 居間のソファーで、気絶状態から回復したばかりの燐に膝枕をして介抱していた琴葉は、それを聞いて、
「フフ…そんなに気になるのなら、様子を見てきたらどう?」
 と、いやらしく微笑みながら提案してきた。
「私は別に気にしてなど…宍戸はどうだか知りませんが」
 言いながら、妃依をチラリと横目で見る美咲。
「…え…っと…じゃあ…少しだけ、様子見てきます」
 美咲の視線を受け、それを否定する理由も見つからなかったので、妃依は素直にそう答えると、残りの配膳を美咲に任せて浴室へと向かう事にした。
『おおっと!! マスター!! 浴室へと向かうんでしたら、私の身体を回収してきてくれませんかネェ!! で、ついでに是非、洗浄もしてきて頂けると嬉しいのですが!!』
 食事の必要が無いので、アブリス共々漫画雑誌を読んでいたヘクセン(棒のままなので、かなり奇妙な光景だが)は、『マスター』に頼み込むにしては、随分と尊大な態度で言い放った。
「…そんなの、自分で取ってきてください…知りませんよ」
 妃依は、振り向きもせずに言葉を返す。
『そんな、マスター!! この私が縦横無尽に動き回れなくてもイイって言うんですか!?』
「…ヘクセンさんに縦横無尽に動き回って欲しい…なんて奇特な事を願っている人は、どこにもいませんよ」
「確かに、ね」
 琴葉に膝枕をされている為か、何処となく陶酔した表情の燐を満足気に眺めながら、琴葉は妃依の言葉に賛同するようにして呟いた。


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