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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-54


「アレは…遊佐間ではないか?」
 目は異物(扉から不自然にはみ出た足)に向けたまま、美咲は傍らに立つ妃依の肩に手を置いた。
「…まあ…そうでしょうね」
 美咲のパスに不審なものを感じつつも、とりあえず同意する。
「確認してみてはどうだろうか」
 言いつつ、肩に置いた手を前に押し出して、妃依を扉へと近づけようとする美咲。
「…いえ…それは嫌です…先輩がどうぞ」
 妃依は、肩に掛かるプレッシャーに対し、全体重をもって抗った。
「しかし、宍戸…ここは、お前が行くべきだと私は思うのだが」
「…そんな…年功序列に行きませんか、先輩」
「お前が行けば、恐らく、遊佐間は喜ぶぞ…!?」
「…先輩こそ…その服装なら、きっと聡先輩、悦びますよ…っ」
 お互い、徐々に本気になって来たらしく、そんな不毛な押し合いは、ジリジリと静かに加熱し――しかし、確実に二人は扉へと近づいていた。
 すると…
『お帰りなさい、二人とも。一体、こんな所で何をしているのかしら』
 不意に、居間への扉が開き、ゴツいガスマスクを装着した琴葉が現れた。
「…え…こ、琴葉先輩…です、か」
「な、何なのです? その、マスクは」
 琴葉の登場によって、ようやく動きを止めた二人は、琴葉の顔面のモノについての問いを同じくした。
『居間の、消毒作業中なの』
「…消毒作業中…って…何かあったんですか」
 浴室で倒れている人物と、この匂いで、ある程度の予想はついたが、妃依は一応聞いてみた。
『あまり思い出したくも無いのだけれど…強いて言うなら、食欲を著しく削ぐ事ね』
 琴葉は、さも大問題だと言わんばかりに、大仰に肩を竦め、嘆息しつつ言った。
『あ、あの!! 琴葉様!! 私の身体は何処にあるんですか!? できれば早い所戻りたいんですが!!』
 唐突なヘクセンの声に、琴葉は表情も目線も読めない顔を、妃依のポケットに刺さっている棒に向けた。
『あら、居たのね、ヘクセン』
『居ましたよ!! 居ますとも!! ここへと帰ってくるのが我が定めとばかりに!! …それはまあ!! とにもかくにも、私の身体は何処へ!?』
『ああ…アレ? 丁度良い所に転がっていたものだから、汚染源を浴室に運ぶ為に使わせてもらったわ。セミオート制御で一時起動させて…命令処理終了後は停止するようにしたから、そこの脱衣所で、聡と一緒に仲良く転がっているのではないかしら、ね…詳しく確認する気にはなれないけれど』
『と…言う事は!! 私の愛すべきボディーは、浴室で弟様のゲロにまみれて…!? い、イヤアアアアアアアァァァァァァッ!!』
「…そもそも、どうして、聡先輩が…そんな…」
『実は私もそうなのだけれど…聡も三半規管が弱かったのね、きっと…フフ』
 全く話が見えない。
『まあ…そんな事はどうでも良いから、夕食の準備を始めて頂戴。空腹感が止め処無く押し寄せて来ていて、大変なのよ、ね』
 めっちゃ腹減った、はよメシ食わせ。と、言いたいらしい。
「…先輩、食欲無くしたって、言ってませんでしたか」
『そうね…でも『ソレとコレとは別腹』と、よく言うでしょう?』
「…この場合は、言わないと思いますけど…」
 本当に空腹らしい琴葉は、立ち話も早々に、居間に引き返そうと…したのだが、その前に美咲に声を掛けられ、振り返るのを踏み止まった。
「あー…あの、琴葉先輩」
 控えめに、鼻と口を押さえていない方の手で挙手をしながら言う。
『何かしら? 雇われメイド』
「出来れば…浴室のドアを閉めてもらっても宜しいでしょうか?」
『そんなの、貴方が閉めれば良いでしょう?』
「いえ、その…こちらからだと、閉める為に扉に近づいた際、嫌なモノが見えてしまいそうで…」
 現在、琴葉が立っているのは、浴室ドアの蝶つがい側。廻りこまない限りは中の様子が見えない位置である。対して美咲と妃依は、ドアの開く側に立っている為、少しでも近づくと、今にも中が見えそうな絶妙な位置なのだった。


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