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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英 =Sommer Marchen=-47

 正午十二時から夜九時までのシフトで入っていた和馬は、夜七時三十分現在も、レジに立っていた。
 仕事帰りに夕飯を買って行く客足も下火になり、和馬が少し背伸びをしていると、ふと、妙な気配を感じた。
 何の気無しに店の外に目をやった和馬は、思わず己の目を疑った。
「えっ…?」
 目を擦っても、ソレは消えない。目の錯覚じゃないらしい。なら、幻覚に違いない。あんなもの、ありえる筈が無いのだから…。
 巫女装束を身に纏った美咲のような人影と、頭の上から獣の耳を生やした妃依のような人影。その二人の人影は、明らかにこちらへと向かって来ていた。
「あ、ああああああ…」
 これは一体、何の呪いなのだろうか。それとも、近しい人の姿を借りた死神なのだろうか。ともかく、和馬は正体不明の恐怖に、ロクに身を動かす事も叶わなくなっていた。
 長身の巫女姿の人物が扉を開け、レジに立っていた和馬の方を見据え、声を掛けてきた。
「なんだ。笹倉、まだバイト中だったのか」
「み…美咲、さん…かい?」
 明らかに格好が奇異だったのだが、何の事も無く普通に話し掛けられたため、思わずそう返していた。
「そうだが…どうした? 笹倉、面白い顔をして」
「み、美咲さんこそ…どうして、そんな格好をしているのかな…?」
 と、和馬に問われて、美咲と妃依は、今の今まで失念していた己の格好を確認した。
「む…着たままだった…」
「…あ、私も、着けっぱなし…」
 妃依は頭の上の耳に触れ、絶望したように息を呑んだ。ここまで来る道すがら、すれ違う人全員が向けて来た好奇の視線の意味の回答を得た瞬間だった。
「…」
 妃依は無言でカチューシャを外すと、何事も無かったかのように、それを背中に隠した。
「し、宍戸、自分だけ卑怯だぞ!?」
「…さあ、何のことですか」
 あさっての方を向き、さらに、美咲からジリジリと距離を離しながら答える。他人を装うつもりらしい。
「そ、それにしても…珍しい組み合わせだね。美咲さんと妃依さんが一緒だなんて」
 和馬は和馬で、美咲の格好について触れる事は避けようという態度であった。あからさまに美咲から目を逸らし過ぎている。
 美咲は気休め程度に腕を組んで背を丸め、わざとらしく咳払いを一つ吐いてから答えた。
「色々と訳ありでな…夕食の買い物に来た」
「確かに…訳がありそうだね…詳しくは聞かないけれど」
「た、助かる…」
「…あ」
 猫耳を服の中に隠し終えた妃依は、和馬のエプロンのポケットから、やけに見覚えのある金属棒が姿を見せている事に気が付いた。
「ん? どうかしたのかな、妃依さん」
「…副部長…その、ポケットの…」
 どう見てもそれは、無駄にテンションの高いアンドロイドの本体だったのだが、その金属棒は何故か、一言も喋る様子は無く、沈黙していた。
「ああ、これかい? 聡に貰ったんだけど…何でも『幸せになれる棒』だとか」
 和馬は金属棒をポケットから取り出して、レジカウンターの上に置いた。
「…大いに騙されてますよ」
「え…? や、やっぱり、違うのかい?」
「…少なくとも、それを持っていても幸せにはなれないと思いますが」
「は、ハハ…そうなんじゃないかと、薄々とは感じていたんだよね…はぁ…」
 和馬は、少しでも幼馴染の言葉を信じてしまった自分を恨んだ。思い起こせば、聡の言葉を真に受けて事態が好転した事など、過去一度たりともなかったのだ。
「これ、妃依さんにあげるよ…僕が持っていても、仕方が無いから」
「…いりません」
 妃依はにべも無く断った。
「じ、じゃあ、美咲さんは…?」
「別に貰っても構わない…と言いたいところだが…本能が、拒否しているのだ…『それは良くない物だ』と」
 初めて見た筈のモノなのに、何故かどこかで見たような気がしてならなかったのである。


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