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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英-34

 少し迂回してしまったが、とうとう(と言う程の道のりでは無かったが)ボス部屋にやって来た。
 真ちゅうの鍵を慎重に鍵穴に差込み、カチリ、と鍵を外すと、難なく扉は開いた。
 体育館の中に入って、まず、全員が思った事は『ああ、確かにボスがいる…』と、いう事であった。
 遊佐間琴葉のことではなく、もっと解り易いボスが、体育館の中央に座していた。
 琴葉曰く『KY-04A キルシュブルーテ』という人型ロボットである。全長5.2メートル、重量890キログラムと、大型ながらも比較的軽量である。
 ドイツ語で桜花を意味するその名とはかけ離れた、威圧感のあるフォルムと赤く輝くモノアイは、まるで攻撃衝動の塊のようであった。
「アレは…遊佐間をさらって行った巨人じゃ…」
 ゴクリ、と唾を飲み込んで、猛が呟いた。
「…確かに、あんなのにお風呂を覗かれたら叫びたくもなりますね」
 バンッと、唐突に、スポットライトが闇の中から一人の女性を照らし出した。
「よく来たわね、貴方達。まずはご苦労様と言っておくわ」
 遊佐間琴葉は、まんま、悪の親玉といった感じでそう言った。
 遂に出た…と、皆(悠樹以外)が固まる中、
「お、お兄ちゃんを返して下さい!!」
 沙華が前に出て叫んだ。何だか、妙にはまっている。
「フフ…貴女の『お兄ちゃん』っていうのは、アレのことかしら?」
 す、っと手を上げる琴葉。それに伴いステージの照明が照らされる。そこにあったモノを見て『ひっ』と、燐が短く息を呑み、妃依ですら『…うっ』と、目を伏せた。
 ステージの上に居たのは十字架に全裸のまま磔にされた聡だった。十字架に磔と言うには語弊があるかもしれない。全体的に斜めを向いているので、バツ印と言った方がいい。つまり、バツ印に四肢を括り付けられているため、見るに耐えない格好となっているのである。ちなみに、本人は目を伏せて『うおおおおぉぉぉ…』と泣いている。
「…酷い」
 ステージはなるべく見ないようにして、妃依が呟いた。
「あはは、聡君、今日はよく裸になる日だね」
 悠樹の言葉に、聡は顔を上げて叫んだ。
「じゃかあしい!! このド阿呆!!」
 彼の精神はもうボロボロだった。
「ど、どうすれば、先輩を解放して下さるんですか…?」
 燐が細々とした声で聞いた。
「そうね…この、私の自信作、『KY-04A キルシュブルーテ』に勝ったら解放してあげる」
 『やっぱり、そういう展開か…』と、全員がそう思った。が、のっぴきならないという事に変わりは無い。
「でも、琴葉姉さん。勝負って、どうやって勝負するの?」
「勝負のジャンル? まあ、純粋な格闘戦では勝負にならないことくらい、私だって理解してるから、ちゃんと別の方法は考えてあるわよ」
「…どんな、方法なんですか」
「要は、貴方達にも、コレと同じ能力を持った機体を用意してあげれば問題ない訳よね」
 全然、問題だらけだ。
「そういうことだから、貴方達の機体は外に用意してあるわ。付いてらっしゃい」
 もう、何が何だかさっぱりだったが、全員、場の流れに流されるまま琴葉に付いて体育館を出て行った。寒々しい格好の聡を一人置いて。
「何でもいいから…服をくれぇ…!!」
 誰もいない体育館に、嗚咽交じりの叫びが木霊した。


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