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非線型蒲公英
【コメディ その他小説】

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非線型蒲公英-33

 五人は破壊された校門を踏み越え(警報が鳴らないのは、琴葉が手をまわしているからに違いない)、校舎の中に歩を進めた。
 そうして、玄関に入って、まず目に付いたのは掲示板にでかでかと張られたマップであった。
「これ…は…? 学校の見取り図でしょうか…?」
「そうとしか思えんのう」
「あ…皆、ここ見て」
 沙華が指したところには『ボス部屋』というシールが張られている。
「…ここ、体育館」
「ここにお兄ちゃんがいるんだよ、きっと」
「安直過ぎるのでは…」
「…考えていても仕方ないですし、さっさとそこに行きましょう」
「ねえ、でも、扉の鍵が必要だって書いてあるよ?」
 確かに見取り図には、攻略本の付録の如く、事細かに色々な事が書いてあった。が、
「…不本意ですけど…『アンロック』できますし、コレで」
 妃依は自覚していなかったが、軽く『ステッキ』の力に酔っていた。
「それじゃ、つまらないよぉ」
「遊佐間を助けるのが目的じゃろうが…」
 渋る悠樹を引っ張って、一同は体育館に向かったのであった。


 しかし、そううまくは行かなかった。
 妃依は体育館の扉に向かって、例の如く恥ずかしい儀式によって『アンロック』を発動させた。が、成功はしたはずなのに、何故か光が出る様子も無い。
 戸惑いによる一瞬の沈黙の後、電子音声がこう告げた。
『コノ扉ハ開ケルコトガデキマセン』
「…なっ…」
『専用ノ鍵ガ必要デス』
 そんなことがあったので、悠樹は『だから言ったでしょ?』と、やたら増長し、今では先頭を歩いている。幸い、校舎内の電気は遮断されていなかったため、蛍光灯を付けながら歩くことにより、皆、恐怖はそれほど感じなくなっていた。
「えっと、鍵は…物理室だって」
 地図と睨めっこをしながら悠樹が言う。一度、玄関に戻って剥がして持って来たのだ。
「物理かぁ…」
 沙華が溜息をつく。
「あ、沙華ちゃんは…物理、不得手でしたよね…」
「うん、物理って聞くだけで憂鬱」
 まるで、『物理』という存在自体が苦手みたいな言い方である。
「…でも、別に、問題を解かされるわけじゃ無いんだか…ら…」
 そう言ってるうちに、その可能性も否定は出来ないことに思い当たる。何しろこの仕掛けを考えたのは琴葉なのだから。
「あー!! テストとかあったらどうしよう!!」
 そこまで嫌なのだろうか。と、妃依は思う。あるいは、何某かのトラウマなのかもしれない。
 そうして、わいわいと雑談混じりで歩いていると、すぐに目的の場所に到着した。


「…これは」
 物理室の中に入って、まず目に入ったのはファンタジックな宝箱。この中に鍵があることは間違いないだろう。が、この中のどれに入っているのかというと、さっぱりであった。
 物理室は、文字通り宝の山だった。嫌な意味で、だが。
「この中から探すんは、骨が折れそうじゃのう…」
「そうですね…眩暈がいたします…」
 困った…そう感じたとき、妃依の脳裏に嫌な予感が奔った。
「…来る」
『ハーイ!! 困った時のオネーさん頼み!! 今回も張り切って行くわよ?』
「…やっぱり、来た…」
『もー、こんな状況なんかスパっと解決しちゃう魔法を教えちゃうからね!! マスター!!』
「…」
『こんな時は『サーチ』の魔法で一発解決!! じゃ、シーユーアゲイン!!』
 まるで、やっつけ仕事だ。面倒なのか、何なのか…。
「…じゃあ、そういう事で、皆さん」
 もう、それだけで皆、何をしろと言わなくてもぞろぞろと動く。こっちはこっちでやっつけ仕事である。
「…まじかるからみてぃーじぇのさいどぱわー…」
 棒読みで早口。既にやる気の欠片も無い。動きも単調である。
「…サーチ」
 やってみてから、何が起こるのか冷静に考えてみた。大量の宝箱の中から鍵を探す。どうすれば即座に見つかるか…。と、その考えを中断するように、杖の先端から光の帯が伸び始めた。
「…何、これ」
 次の瞬間からは、唖然とするしかなかった。
 杖から伸びた光の帯は、天井と床と宝箱を滅茶苦茶に打ち据え始めたのだった。飛び散る建材の破片と広がっていく宝箱の残骸。宝の山は、一変、死の山へと変貌を遂げていった。
 散々に破壊し尽くすと、光の帯は我に返ったかのように瓦礫の中を捜索し始めた。間もなく、光の帯が、真ちゅう製の鍵を見つけ出してきて、妃依の手に、ぽとっ、と落とすと、光の帯は消滅した。
「…また、力技じゃないですか…」
 誰にとも無く、呆れてそう呟いた。
 廊下で、後ろを向いて耳を塞いでいる皆は、この惨状に気が付いていないようだ。
「…まあいいか」
 妃依は、部屋を出るのと同時に、扉を後ろ手で閉めて、中での事は無かったことにした。


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