投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

〜吟遊詩〜
【ファンタジー その他小説】

〜吟遊詩〜の最初へ 〜吟遊詩〜 12 〜吟遊詩〜 14 〜吟遊詩〜の最後へ

〜吟遊詩(第二部†旅立ち・試練†)〜-3

「もぅ…いや……」
女が本に埋もれながら呟いた。女の名前はミノアール。
ここはB・C、化学部・薬品調査班だ。
ミノアールはもう2日も寝ていなかった。目の下にはクマができている…が、これは彼女の天然のものである……。
「毎日、残業ばっかり…私はいつになったら眠れるの〜」
目の前がぼやけてきた。
B・Cには個人個人に部屋が与えられており、宿泊施設はその辺のホテルと同じくらいは整えられている。もちろん自由に家には帰れるが、主な仕事が研究という時間との戦いのものであるので、皆まとまった休みを取る時以外は家にはあまり帰らなかった。
それにしてもミノアールは自室にも帰れずにいた。まさに研究のデフレスパイラル。頭がボーッとして化学反応式がまとまらない。
「…ール!…アール!…ミノアール!」
「えっ!?」
誰かに名前を呼ばれミノアールは我に返った。ミノアールはいつの間にか寝てしまっていた。呼んだ人は研究員仲間のトムだった。
「ミノアール、椿班長が呼んでるぞ!早く行けよ。」
まだ寝惚けているのだろうか…
(椿班長はここの部所じゃないはず。開発班の班長が私に何の用かしら)
嫌な予感をかかえながらミノアールは化学部・開発班の部屋に向かっていった。
「椿班長…失礼します。レント・ミノアールです」
班長室のドアを開ける。そこは大きなグランドピアノが部屋の大半を占めていた。
(あっ…スケルトンのピアノだわ…凄い高いんだろぅな)
そんなことがミノアールの頭をかすめた。次に溜め息をつきたくなってしまうほど美しい椿の姿が目に入ってきた。一気に緊張の波が押し寄せる。
「あぁ…楽にしな。それにしても…凄い身なりだな」
ミノアールの姿を見ると椿はそぅ言った。その言葉にミノアールはハッとした。ミノアールは何日も鏡を見ていなかった。確に、普段は美しく波打つ髪も今は所々、逆毛立っており、更に肌もあまり調子良くなかった。しかし、研究に没頭している人は皆このようになっているのでミノアールは椿に言われるまで気付かなかったのである。
「スミマセンっ!!」
訳も分からずミノアールは謝った。
「良い…まぁしょーがないだろ。社長がお前を呼んでいる。それじゃーあんまりだから着替えをして…二時間後にまた此処に来い」
「しっ…社長が!?」
思わず声が裏返ってしまった。
(くっ、く、…)
「くび…く、び…くび…!?」
ミノアールは頭が真っ白になった。
「きっとクビよ…眠いとか文句言ってたのがバレたんだわ…」
ぶつぶつと呟き立ち尽くすミノアール。そんなミノアールを椿は構わず部屋から押し出した。
「せめて顔くらいは洗ってこいよ」
フラフラ歩くミノアールの背中に向けて椿は叫んだ。 『ゴンッ…ゴンッ…ゴッ』 ミノアールが壁にぶつかる音か聞こえた。
その音を聞いて椿は思った。
(言い方が悪かったか?まぁいいか…)
と…。

しばらくの間、椿の部屋はピアノの音で満たされた。


 「サーペント…いるのか?」
ボスが言った。
ボスの部屋はさっき椿が来たときとは打って変わって、事務的な雰囲気に模様替えされていた。『社長』の面となるのだ。
書類が山積みになった味気無い机の下を、何かが『シューッ』と音を立てて通りすぎた。
黄色の目に、チロチロとせわしなく動く細長い舌。大きな大きなヘビだった。
「あぁ…サーペント、そこにいたのか…」
ボスはヘビに話しかけていた。しかし独り言ではない。
「なんだよ…アダム。ご機嫌だな…」
ヘビは答えた。『アダム』とはボスの名前のようだ。ヘビの声は皴枯れていて、ドスの効いたものだった。
「俺の千年越しの計画が終りに向けて再び動き出したんだ。嬉しいよ…」
アダムが笑いながら言う。
「終り…?終りじゃないさ。これからが始まりだろ?」
サーペントは諌めるように言ったが、彼もまた嬉しそうだった。
「ふっ…そーだったな…」
そう言いながらアダムはサーペントの体を撫でようとした。
「本題はなんなんだ?」
サーペントはアダムの手から逃れるように身をよじらせて、厳しい口調で言った。
「おっ…と。」
いい当てられた事に驚くアダム。
「お前がオレを撫でるときは何かしらメンドーなことがある」
サーペントはシラっと答えて部屋の隅でとぐろを巻いた。
「ただちょっと頼み事があって…」
アダムがそこまで言うと…
━━コンコン━
部屋のドアがノックされた。
「失礼します」
ミノアールだ。
「あぁ…どーぞ。そこに掛けて」
ミノアールに優しくそう言ったアダムは、黄金の髪と、紅い瞳を持った美しい男だった。
(社長…本当に若いわ…それに美しい。見ただけでイっちゃいそう。)
ミノアールは勧められた椅子に腰かけることも忘れ、アダムに見とれてしまった。
「…座らないの?」
困ったようにアダムが笑う。
「あっ…えっ済みません!」
ミノアールは今日は謝りっぱなしである。
「君のブレッドは時間は戻せるの?」
やっと椅子に着いたミノアールにアダムが優しく聞く。
「えっあっ…少しなら。例えば…二時間前に戻したら、二時間しか戻しておけないです…。」
ミノアールが丸くなりながら答えた。
(あぁ…こんなことも出来ないなんてクビだっ!って言われるんだわ!!)
「んー…君に頼みたい仕事があるんだ。」
アダムは少し考えてそぅ言った。
「へっ!?あっ…はい。」
(クビじゃない!?)
良く分からないが取り合えずミノアールは胸をなでおろした。


〜吟遊詩〜の最初へ 〜吟遊詩〜 12 〜吟遊詩〜 14 〜吟遊詩〜の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前