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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・ヴィストラウレ-18

 何だか色々なものを台なしにした声の主は医局で一番偉い人、医局長である。
 まだ二十代後半のいかにもインテリっぽい青年で、彼が深花の主治医だった。
「朝から盛り上がっている所に申し訳ないねぇ!僕は睡眠不足だからそこの所は勘弁してくれたまえ!」
 陽気というより怒気を孕んだ声で、医局長は言う。
「何しろ目の治療がはかばかしくないから薬浴のレシピを変えようかと人が四苦八苦して試作してる時に夜風にのってあんあんあんあん聞こえてきて、全く集中できなかったからね!」
 一気にまくし立てると、医局長は懐から丸めた羊皮紙を取り出した。
「そんな痴話喧嘩をかませるくらいに元気が回復したのなら、僕が庇い立てする理由もないだろう。神機チーム宛てに救援要請が来ている。目が見えない以外は健康体なんだし、ぜひとも引き受けてくれたまえ」
 医局長は近づいてきて嫌みったらしくジュリアスの頭に上へ羊皮紙を乗せると、部屋を出ていった。
「……救援要請?」
 頭の上に乗せられた羊皮紙を手に取ると、ジュリアスは広げて読み上げた。
「ムウェルト県のサボナ森林地帯に神機集団が出没中……水系統の神機によるゲリラ戦により、周辺地域に甚大な被害が拡大中」
 ジュリアスは、頭をばりばり掻いた。
「サボナ森林地帯だぁ?」
「何かまずい事があるの?」
「あの辺り一帯は穀倉地帯なんだ。そろそろ穀物の収穫が始まるし、国庫にダメージがいくのはまずいだろ」
 ○○県は国の物、××領は貴族の物と教わったのを、深花は思い出した。
「医局長がああ言ったからには、ティトーもフラウも承諾したって事だ。俺も異論はないし、お前は……」
 ジュリアスは言葉を切り、慌てて体を離した。
「うん。誰かが助けてくれれば歩けるだろうし、目以外は健康体だって医局長のお墨付きが出たから行けるよ」
 深花は、すっくと起き上がる。
「ムウェルト県のサボナ森林地帯っていうのがどこにあるのかまだ分からないんだけど、日程としてはどのくらいかかるの?」
「基地からかなり離れた場所だ。緊急性の高い案件だし、たぶんカイタティルマートで飛んでく事になると思う。荷物は着替えくらいで十分だろ」
「分かった。それじゃ……」
 とりあえず濡れた包帯を取り替えようとした深花は、動きを止めると真っ赤になった。
「ち……痴話喧嘩って!痴話喧嘩って!違ううううぅ!」
 深花の叫びは、医局長には聞こえない……。


 指定されたポイントにこの辺り一帯の警護を担当している中隊が待機しているのが、カイタティルマートの目を通して見えた。
 中隊から少し離れた場所に降り立ったカイタティルマートは屈み込み、手の平に乗せていたジュリアスとフラウを地面に降ろす。
 それから深花を抱き抱えて、ティトーがカイタティルマートから降りた。
「ほれ交代」
 よたつく深花をティトーから受け取り、ジュリアスは深花に杖を持たせる。
「救援要請をお受けいただき、感謝します」
 ティトーに敬礼した代表が、そう切り出した。
「仰々しい挨拶は抜きで。状況は?」
 ティトーの言葉に、代表は浮かない顔をした。
「芳しくありません」
 代表の官位は、少尉。
 中隊をまとめるには、少し位が足りない。
「そちらより前に派遣いただいた神機チームの方々は負傷してしまい、隊長は我々を逃がそうとして……」
 言葉を切って嗚咽を堪える代表の肩を叩いて慰めると、ティトーは言った。
「では、敵勢力の掃討に入らせていただく。ジュリアス、お前と深花の同乗が一番いいだろう」
「だな」
「あの……」
 代表が、恐る恐るといった風に口を開く。
「そちらの方は、どうかされたのですか?」
「噂くらいは聞いているだろう」
 深花の肩に、ジュリアスの手が回る。
「リオ・ゼネルヴァへ帰還したミルカ、深花曹長だ。先だっての任務で目を負傷しているが、今回の掃討作戦に支障はない」
「そ、そうですか!ミルカ殿!」
 代表の顔が、安堵で綻んだ。
「お荷物はここで預からせていただきます。健闘を!」




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