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【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(6)-3



三回生の冬というのは様々なものが入り乱れる大変な時期だ。就職活動、アルバイト、サークル活動、そろそろ卒業論文についての話題も増えてくるし、講義なども徐々に細分化されていく。僕はそんなにサボタージュしていた訳でも無かったから、ある程度余裕を持ちながら日々を過ごしていたものだが、辺りの騒がしさはそれはもう凄いことになっていた。必修科目がとれていない者や、単位が足りずこのままでは三回生をやり直さなければならない者。そんなダークな話題が現実として輪郭を持ち始め、大学生の大半は焦りとともに苛立ちを覚える。
「なぁ水谷。俺たちって、たぶん人よりズレているよな?」
「どうして?」
「だってさ、サークルのツレとかは何かにつれてヤバいヤバいと呟いている訳だが、俺とお前はなにがどうヤバいのかが解らない。それって、人よりずれているんだと思うんだが」
「比較的まともなんだよ、きっと」
田中は比較的まともだった。将来の事も考えているし、後一年の過ごし方もビジョンを持っていた。だからかも知れないけれど、僕とは違う意味で余裕を持っていた。
「どうして他所の奴はあんなにも焦っているのだろう。焦ったって、一つもいいことなんかありはしないのに。この大学をそれなりの成績で卒業して、それなりの会社に入り、それなりの奥さんを貰って、それなりの人生を送るんだよ、みんな。焦ったって、それが変わるとは思えないけれど」
色んなものが、僕らを後ろから押していた。僕らは知らない内に大人になっていて、知らない内に責任というものを持たされ、知らない内に次世代の模範となる事を求められている。個性だなんだと押し付けられて育った僕らは、個性なんてものとはほど遠い所からそれを見つめている。後ろからくるその何かを睨み返し、突っつかれながら走っているに過ぎない。
「でもきっと、みんな怖いんだよ。将来なんて曖昧なものほど信頼おけないから」
「自分で曖昧にしときながら、それはないんじゃないか?」
「かもしれない。むしろ自分で曖昧にしたから、怖がっているんじゃない?」
「だろうな。いや、そうだと俺も思う。はぁ、クリスマスだって言うのに、なんでこう大学生は憂鬱なんだろうなぁ」
クリスマスが近いこともあって、辺りはなんだかキラキラしている様だった。商店街のステレオは無限リピートで「ジングルベル」を唄い、恋人達は誰かに見せつける様にその身を寄せ合い愛を呟きあった。どこもかしこも赤と緑のカラーリングで溢れていて、僕は目眩をおぼえそうな気分だ。大学構内も例外ではない。聖夜は、誰の前でも現れる。
「なぁ水谷。ああやって見せつける様にならんで歩くカップルを見たら、なんかこう、破壊衝動がふつふつと沸いてこないか?」
「気が会うね」
「よし決めた。俺は聖夜を信じない」
もとより、聖なる夜を信じている人間が、この日本にどれほどいるのだろう、僕はそう考えた。考えたってどうしようもない問いだったけれど。
「田中は予定無いの?」
「ん?なにがだ?」
「だからさ、クリスマスの」
「あったらあいつらに嫉妬なんかするもんかよ」
「そう」
「水谷は?」
「僕?」
「クリスマス。何か予定があるのか?」
「ある様に見える?」
「悪い。愚問だったな」
本当のことを言うと、僕には予定があった。予定というか、行動規範とでもいえるものだが、確かにあった。
「クリスマスを喜んでいたのは、子供の頃だけだったな」
そう呟く田中に対して、僕は何も言わなかった。一体、なにを言うべきだというのだろう。ただ僕と田中は、煙草を吹かしながらクリスマスという不確かな記念日について考えていた。


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