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【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(6)-4

木村さんと村田さんが自宅でクリスマスパーティを開くと言う。別に僕らはキリストを敬っていた訳ではないから、そんなことはしなくてもいいはずなのだが、木村さんは譲らなかった。
「田中、クリスマスだぞ!?」
「はぁ」
「クリスマスといえば、我が天文サークルだろう」
「いや、言っている意味がわからないんっすけど」
「天文サークルは、何をするサークルだ?」
「星の成り立ちを考えたり、天体を観測するサークルじゃないんっすか?」
「否!」
「まぁ、当たってるとは思ってなかったですけどね」
「恋愛サークルだ!」
「名前、変わってるじゃないですか……」
つまり、こういうことだ。
「彼女がいる俺はいい。しかし貴様達はどうだ?むさい男同士で愛を語り合うのか?ダメだ。そんなことは断じてダメだ。やはりクリスマスというものは、恋人同士で過ごすのが正しいあり方だと、俺はそう思うんだ。なぁ水谷?」
「いえ、思いません」
「……、まぁなんだ。だからだな。とにかくクリスマスパーティをしよう」
少しもちっともどうしてそれがクリスマスパーティに繋がるのかが僕には解らなかったが、とにもかくにもクリスマスパーティは行われることで決定になりそうだった。僕は田中を見てやれやれ、といった顔をした。田中は僕を見てやれやれ、といった顔をした。
「だから水谷、お前は井上を誘え」
「どうしてです?」
「お前と井上、何かあったのだろう?」
思わずあの日の千明の背中が脳裏に蘇り、僕は例えようのない痛みに囚われた。眼の裏側をガンガンと殴り、涙腺を酷く刺激している。目頭が熱くなるのを認識して僕は考えるのを止めた。泣きたいと、僕の身体はそう言っている。どうしてかはわからないけれど。
「どうしてそう思うんです?」
「どうしてって、お前なぁ。あんなに四六時中一緒にいたお前らが、急に言葉も交わさなくなれば、誰だっておかしいと思うだろう」
「かもしれませんね」
「かもしれませんって、お前なぁ。いいか、水谷?俺はな、千香ちゃんの誕生日でお前に少なからず恩義を感じているんだ。なんとかしてやりたい、そう思っているんだ。そうやって自分の殻に籠るのはいいが、少しは井上の事を考えてやれよ。お前にしか出来ないことが、俺にはあると思うぞ」
「僕にしか出来ないこと、ですか」
「別にただ騒ぎたいからパーティを開くんじゃない。何かにキッカケになればいいと思ってだな」
木村さんは、木村さんだった。いつか千明が言っていた「やる時にしかやらない」。でもそれは大きな美徳であるのかもしれない。だってやる時にはやるのだから。
「素直に受け取れ」
「そうですね」
僕はもうほとんど泣き出しそうになっていた。過去にこれまで、人の暖かみに触れたことがあっただろうか。僕はウスノロな自身の脳みそを揺すって、そう問いかけた。木村さんは変わった。何が彼をそう変えたのかは、僕には解らない。けれどそれは、決して残念な変化ではなくって、人の心を素敵な気持ちにする変化だ。




眠りから覚めると僕は勢いよく飛び起き、顔を洗い、歯を磨き、煙草一本とコーヒー一杯をゆっくり楽しみ、出来るだけ清潔な服装を選び外に出た。歩き出して数分で携帯電話を取り出し、ダイヤルを呼び出す。そこには控えめに「千明」とかいてあった。
千明は呼び出しベルの6コール目で電話に出た。
「もしもし。千明?」
「……、もしもし?どうしたん?」
「いや、特に様は無いのだけど。少し千明の声が聞きたくなって」
千明の声は沈んでいた。僕の声はうわずっていた。お見合いをした二人であってもこんなよそよそしく話などしないのだろう、と僕は見当違いのことを考えた。
「用も無いのに、電話なんかかけてこんといてよ」
「用があればいいんだね?」
「うん……、まぁ、そうやな」
「じゃあ要件を伝えるとしよう。千明、会いたいんだ。会って話をしたい。話さなければいけないことがある」
「私には別に話したいことなんてないんやけど」
「嘘だ」
力強く僕はそう呟くと、後は黙った。何も言う必要は無かった。僕自身の殻は、少しだけれど開いた。後は千明の反応を待つのみだ。
「10分後、あの公園で」
「うん。わかった」
「じゃあ、そういうことで」
「うん、あぁ、そうだ、千明?」
「うん?どうしたん?」
「元気?」
「……かもしれん」
少しの空白があってから、千明は絞り出す様にそう答えた。電話が切れると、僕は足早にあの時の公園へ向かった。初めて千明の「好き」という単語を聞いた、あの公園。



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