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「Wing」
【ファンタジー その他小説】

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「Wing」-21

ようやく親子が森を抜けると日が地平線から昇ろうと頭を覗かせていた。三日間、食事も睡眠も取らず走り続けたため、親子共々疲弊しきっていた。
東の方に村を発見した少年。母親の手を引き、少し小走りに歩を進めていった。





長閑な村であった。子供達が畑仕事から帰って来た父親の胸に元気よく飛び付き、その光景を優しい顔で見つめる母親。黄色い蝶が飛び回り、可愛い子犬がそれを捕まえようと懸命に追い掛け回し、それをのんびりと見つめる母犬。
この村で暮らしていく事を決めた二人。まだ男性を失った悲しみからは抜け切れていないように見える。





外は雨が静かに、ひたすら静かに降っていた。普段ののんびりとした、時だけがゆっくりと流れているような雰囲気は何処にも、無い。
無機質な真っ白い部屋に母と子が二人。母親はベッドに伏していた。
「お母さん……」
母の傍で母の手を握り締め、必死に涙を堪える少年。声が若干震えて聞こえるのは気のせいではないだろう。
「……ォン……」
非常に小さくか細い声。命の燭が今にも消え去りそうな声で息子の名を呼ぶ。
「お母さん、どうしたの?」
手の甲で涙を拭い、笑った顔で母の口元に耳を寄せる。
「……これ……父さんの……形見……」
母親の首に常に輝いていた緑の宝石。それを外し息子の手に握らせる。そして、
「……ごめんねぇ……レ…ン………ご…んね……強、く……い……き…………て……………」
両の瞼を閉じ、そして本当に安らかな顔で、まるで寝てしまったかのような顔で、ゆっくりと息を引き取った。
「お母さん! 死んじゃやだよ! お母さん! 死なない、で……おか、あ……さん…………か……ん……………………」
最後の方は咽び、何を言ってるのか分からなかった。
返事は、無い。
「……うあああぁ!」
それまで堪えていた涙が、悲しみが、堰を切ったように溢れ出した。息が続かなくなるまで叫び、切れると再び吸い込み叫ぶ。全てを出し尽くすまで喚き、出し尽くすとまた吸い込み喚く。
雨音が母親の死、少年の泣き声を包むように、ただ静かに、ただただ静かに、音も無く降り続けていた。





星々が煌めく夜空。月の輝く丘の上。少年は独り立っていた。石碑の前に立っていた。
「強く、なるから……」
たったそれだけ言い残して歩き出した。一歩一歩、踏み締めながら。二度と振り返る事はない。三日月だけが少年の背を見守っていた。


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