そんな事で嫌いなったりしない....-2
ホラーハウスで晒した俺の醜態は入る前に想定していたものを遥かに超えていた。ホラーハウスを出て肩を落としてグッタリしてベンチに座っている俺の右隣りで彼女は肩を震わせていた。笑いを必死にこらえているのだろう....この恋は終わった....そう思った。
こらえているような笑いがやがて大笑いに変わった。彼女は腹を押さえて笑っていた。
「あぁお腹が痛い.....やだぁもう....涙が出て来ちゃた.....」
彼女は指で涙を拭った。
「鷹矢君!!お化け屋敷には好きな女の子と入らないほうがいいよ！」
こみ上げて来る笑いを必死にこらえて、
「だってそうでしょう！あんな姿を見せられたら、好きだという気持ちも一瞬で醒めてしまうもの！」
彼女の口調がいつもの口調に戻っていた。やはり彼女は俺を異性として見ていない....完全に終わった.....そう思った.....こうなったら玉砕しよう....そう考えた.....
「もう手遅れだよ....俺...南津野さんの事....好きだったんだ....」
「えっ.....」
「あんな姿を見せた後じゃ笑い話にしかならないけど....今日告白しようって思ってたんだ....」
「冗談....でしょう？」
俺は顔を上げて彼女の顔を見た。
「本当だよ！俺は南津野さんの事が好きだよ！」
「ゴ...ゴメンなさい...」
「いいよ...わかってたから....」
「違うの....謝ったのは自分の気持ちを隠すために鷹矢君の事を笑ってしまった事....」
「えっ？」
「私....中学の時、好きだった人にふられた事があるの....その頃の私は誰とでも気軽に話してた....中学を卒業すると会えなくなるので思い切って告白したの......その人なんて言ったと思う？」
俺はどう答えていいかわからなかった。
「その人....私の事女の子として見れない....だって....」
「どうして？南津野さんはこんなに綺麗なのに....」
「気軽に何でも話してたから友達としか見れないって....私はそれでもいいかなって思ったんだけど....気まずくなってそれっきりになってしまったの....それからは気軽に男の子とは話さないようにしてきた....同じ失敗を繰り返さないように....でも....」
彼女は顔を上げて俺の顔を見た。
「でも....鷹矢君に出逢って....何故だかわからないけど、鷹矢君の前では飾らない自分でいられた....そのうち鷹矢君の事が好きになって....鷹矢君に女の子として見れないなんて言われたら....そんなの嫌だから....女の子らしい所を見せようと....いつもは着ないワンピースを着てみたり....さっきだって....お化けを怖がって鷹矢君にしがみついたりしたら女の子らしい所をアピール出来るかなって....嫌がる鷹矢君を無理やり....そこで鷹矢君に恥をかかせる事になってしまって....完全に嫌われた....そう思ったら涙が出てきて.....」
「えっ？それじゃさっきは笑いをこらえてたんじゃなくて泣いてたんだ...」
「うん....でもこんな所で泣いたら....鷹矢君を困らせるだけだから....だから大笑いして涙が出てきたってごまかそうとしたの....ゴメンね....私....鷹矢君の事傷つけてしまったよね....」
「そんな事ないよ....」
俺は彼女を抱き寄せた。
「俺も彼女にふられた事があるよ....さっきみたいに彼女に無理やりお化け屋敷に連れて行かれて....そこで醜態を晒してしまって....その彼女はお化け屋敷を出たとたんに俺に別れを告げて帰ってしまった....だから俺は好きな女の子とはお化け屋敷に入りたくなかった....また同じ事になるんじゃないかと思うから.....南津野さんだって嫌だろう....こんなヘタレな彼氏は....」
彼女は俺の顔を見上げて、
「私はそんな事で嫌いになったりしないよ！鷹矢君のいい所をいっぱい知っているから....鷹矢君こそ私みたいな我が儘で女の子らしくない彼女は嫌でしょ....」
「俺もそんな事で嫌いになったりしないよ！俺は南津野さんの可愛い所や女の子らしい所をいっぱい知っているよ！」
俺は彼女の目を見て、
「改めて言わせ下さい。」
彼女も俺の目を見ていた
「俺は南津野さんの事が好きです....俺と付き合って下さい....」
「ハイ.....」
彼女はそう答えて飛びっきりの笑顔を見せてくれた。