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続・幻蝶
【フェチ/マニア 官能小説】

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続・幻蝶(その2)-2

すっと薬品の匂いが鼻腔に滲みわたった。手にした洋燈の灯りで中を照らすと、部屋全体が、
ぼんやりと浮かび上がる。数々の蝶の標本箱がぎっしりと壁に掛けられ、古い書棚に分厚い本が
並べられていた。

テーブルに広げられた数々の展翅台、ピンセット、長針の束…。それにいくつもの薬品瓶とフラ
スコ…まるで化学の実験室のような部屋だった。私はそのとき強くあの頃のヤスオを感じた。

そして本棚のあいだの中央の壁には、鉛色の鉄格子がはまった奇妙な扉があった。私は洋燈を手
にしたまま、その鉄格子を開けると、中にはもう一枚の木の重い扉があった。
そして、その扉を開けると、先には細い螺旋状の階段が地下へと続いていた。わたしは恐る恐る
その薄暗い階段を降りていった。

そして地下の突きあたりの細長い重厚な扉を開けたときだった。

淡い壁灯が灯されたその部屋から、湿った麝香の匂いが漂ってきた。どこか重厚な牢獄のような
その部屋は、黒ずんだ石の壁と床に被われ、高い天井からは、不気味な鎖の束が垂れ下がってい
たのだ。そして、奥の壁に寄せるように置かれていたものは、死人を入れるほどの大きさのある
棺桶のようなガラスケースだった。


私は、そのガラスケースの傍にゆっくりと歩み寄る…。

何も入っていない柩のようなガラスケースには、文字が刻まれた銀板が貼り付けてある。
そこに書かれていた文字を目でなぞったとき、私は眩暈のするような悪寒に襲われた…。


「愛すべき蝶…亜沙子…20XX年○月×日」と記されていた。

…いっ、いったい、どういうことなの…

私はその銀板に書かれた文字を食い入るように見つめた。
私の頭の中が混乱していた。打ち続ける烈しい胸の鼓動と体内を逆流するような血液を感じなが
ら、私は茫然としてその場に立ちすくんだ。頭の中が真っ白になり、膝が小刻みに震える。

そして、そのガラスケースの傍の丸いテーブルに広げられた辞書のような古本…その本の中には、
人体の図解と複雑な文字や数字が羅列してあったのだ。

私はこの文字が読めなかったが、その本に差し込まれたメモには、「サフラーナ」と「亜沙子の
ミイラ」という日本語の走り書きがしてあった。


恐怖が咽喉を締めつけ、胸の息苦しさとともに吐き気が私を襲い、渇いた嗚咽が迸る。氷のよう
な冷たいものが背中を走り抜けていく。

ヤスオから私に送られてきたあの標本箱の中のフィギュアの姿が、ゆらゆらと脳裏の奥で舞う。
ヤスオが何をたくらんでいるのか…優雅なヤスオのあの顔が、私の中でガラスの仮面のようにひ
び割れ、砕け散っていく。


そのときだった…。

「…ここに入ってはいけないと言ったはずです…亜沙子さん…」

背中でヤスオの低い声がしたとき、私の口を塞ぐように布が押しあてられる。強い薬品の臭いが
鼻腔を満たしたとき、私は全身の力が抜けるようにその場で気を失ってしまったのだった。




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