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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・アファレヒト-15

「そろそろいいかしら?」
 ファスティーヌの声に、深花は体を馬車の中に戻す。
 中では、フラウが何とも言えない微妙な表情を浮かべていた。
「いつ彼と和解したの?」
「え?あ……まあ色々ありまして……」
 取って付けた様な空笑いをしつつ、深花はフラウから視線を外す。
 数日前……結局、抱き締められたまま眠りに落ちて一晩過ごしてしまい、フラウのために抗議に行ったのにフラウに対して後ろめたい思いを抱えるというややこしい事態を自ら招いてしまったのだ。
「弟もいやに親切よねぇ……あんまりこういう事に気を使う質の男じゃなかったんだけど」
 意味ありげに目を細めながら、ファスティーヌは言う。
 あはははは、と乾いた笑いが唇から漏れた。
「それはほら、あれですよ。私が大人なのに保護が必要だからすっかり世話焼きが板についちゃったとか」
「そうかしらね……」


 馬車はそのまま城へは入らず、ファルマン伯爵邸へと乗り入れた。
 深花とフラウの二人が『見苦しくないように』体裁を整えるため、ファスティーヌが色々貸してくれる事になったからである。
 基地の近くにあったブティックで購入したドレスも悪くないが、王宮にいると見劣りするのは確実らしい。
 頭の空っぽなお嬢様方から揚げ足取られると不愉快だから豪勢にいきましょう、というのがファスティーヌの弁だ。
 そんな訳で伯爵邸のお針子達を総動員してファスティーヌのドレスを着こなせるように丈を調整し、髪を豪奢に結い上げ、美々しく化粧を施し、どこから見ても恥ずかしくない令嬢二人が仕上がる頃にはレセプションに向けて王城へ出発する時刻になっていた。
 三人の乗る馬車も贅を尽くした四頭立てが選ばれ、まるで自分が本物の令嬢になったかと錯覚するほどだ。
 先に入城して控室で待っていた男達も、美しく着飾った三人を見て言葉を失う。
 男達、とは言ってもユートバルトは違う事で忙しいのでここにいるのはザッフェレルとティトーとジュリアスの三人だが。
「いやはや……」
 しばらくしてからようやく、ティトーが声を出した。
「三人揃って、大化けしたなぁ……」
 ティトーだけは私人としての立場を強調し、エメラルドグリーンのベルベットでできたダブレットに白いタイツという格好をしている。
 しかしザッフェレルとジュリアスは官位に添った礼装で、素っ気ないといえば素っ気ない。
 見た目として、ザッフェレルはいつもとたいして変わらないがジュリアスの方は普段ほったらかしの髪を整髪料で撫で付け、軍服を着込んだだけでぐんと貴公子らしく見える。
「どうよ?小煩い侯爵令嬢に文句は言わせないわよ」
 ファスティーヌが胸を張ると、ティトーは呆れた表情を見せた。
「まだ令嬢と張り合ってたのか?」
「仕方ないでしょ。あっちが勝手に対抗意識燃やして突っ掛かってくるんですもの」
「ま、お好きなだけいがみ合っててちょうだいね、っと……お嬢様方、こちらのお席へどうぞ」
 立ち上がったティトーはフラウと深花のために椅子を引き、完全に令嬢扱いしてくれる。
「ちょっと、私の分は?」
 ファスティーヌの抗議に、ティトーは舌を出した。
「ザッフェレルに頼めよザッフェレルに」
「後で覚えてなさいよ」
 姉弟のじゃれあいを眺める間もなく、部屋にユートバルトがやって来た。
 プレートメイルを脱ぎ去り、金色の縁取りが施された藍に近い深い青のダブレットに着替えている。
「三人とも、いずれ劣らず美しい。王宮に稀有な花が三人も揃うとどのような部屋に招待しても、全て色褪せてしまうな」
 歯の浮く台詞を挨拶代わりにすると、ユートバルトは力なく椅子に座り込んだ。
「ザッフェレル。騎士団長がレセプションに出席したいと言って聞かないんだが……我慢できるか?」
 ザッフェレルの渋面を、深花は初めて目撃した。


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