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階段を上る時
【その他 官能小説】

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階段を上る時-4

チャットで別れてからも二人の交際は続いた。電話やメールを手段とし、互いの容姿・生活環境なども次第に理解が出来始めた頃・・・。二人の姿はとある海辺にあった。二人は約束を果たし、そして出逢ったのである。二人の住んでいる場所は遠く離れていた為、互い住んでいる場所の中間地点である《K県》で落ち合うことになっていた。ここの海はオールシーズン賑わいを見せており、カップルも非常に多く見受けられる。遥奈は電車で赴き、悠斗は車で遥奈を出迎えた。二人の様子は、とても初めて会った物同士の雰囲気ではなく、数年来の付き合いを見せるカップルのように見受けられた。傍から見れば仲の良い恋人同士に見えるに違いない。始めは怖気気味だった遥奈も、悠斗の人懐っこさと優しさに心を開くのに時間は掛からなかった。悠斗に限っては、遥奈に逢った途端に惚れ込んでしまったように見受けられる。出会って一時間足らずでお互いの全てを許しあえる、そんな関係を築き上げてしまったのである。

 二人が見上げた空には星が輝き始めていた。昼過ぎに出会ったはずが、何時の間にか夕方の時刻をまわっていたのである。二人は時が経つのも忘れ、会話に没頭していたのだった。周りを見れば、家路につこうとする高校生のカップルや、手をつないで歩く恋人などが目に付いた。時刻は夕食時となっていた。だが、二人にとって食を満たす時より、傍にいられる時間のほうが大切な時なのであった。明日になればまたお互いの生活に戻らなければならない・・・。出逢ってしまった二人にとって、別れなど考えたくもない事であった。だが時は無常にも流れ、辺りは闇に包まれ始めていた。冬の冷たい海風は、とても肌寒いものであったが、逆に二人の距離を縮めていた。お互いに密接することにより、暖を得ようとしていたのだ。海岸に止めた愛車を風除けとし、車に積んであった薄手の毛布で二人を包んだ。二人とも足を丸め、体育座りの格好で海を見つめ、そして星を数える・・・。互いに顔を見つめ合うと、鼻先ぶつかってしまうほど密接し合っていた。ふと悠斗が、
「俺の手、暖かいんだよー。遥奈の手、冷たくない?」
と遥奈の寒さを気遣い、言葉を掛ける。それに応えて遥奈が手を差し出す。悠斗の心配どおり、遥奈の手は凍えきっていた。指先は赤く染まり、痛々しい。悠斗は遥奈の手を握り、自分の手の中で暖めようとした。その刹那、互いの視線が絡み合った・・・。今までとは違う、悠斗の眼差しに、遥奈は一瞬驚きを見せた。だが、遥奈は体の力を緩め、悠斗に身を任せた・・・。悠斗もまた遥奈の心を察し、握った手を自分の元へ引き寄せる。そして二人は初めてのキスを交わした・・・。二人の心に、熱い想い込み上げる。触れるだけだったキスは、何時の間にか深い情熱的なものへと変わっていた。悠斗は左腕で遥奈を支え、右手は遥奈の左手を握り締める。遥奈は全てを委ね、半ば恍惚状態に陥っていた。遥奈は軽度とはいえ男性恐怖症に陥っていたのである。もちろん男性のことを殆ど知らないでいた。悠斗に限っては、一回目の離婚後荒れていた時期があり、女遊びが酷い時期があった。その為、ある程度女性慣れしていた。だが、悠斗はそれ以上のことはしようとはしなかった。そっと遥奈を抱きとめると、
「寒いから車に戻ろう」
と優しく声を掛けてきた。遥奈は半ば、ボーッとしながらも彼の後に続き車内へと戻っていった。

 車内へ戻った二人は、先ほどまでとは違い、体の距離を詰めるのに違和感を感じなくなっていた。先程まで毛布に包まっていたときは、遠慮しがちであったが、キスを交わした影響であろうか、親近感よりも愛情感が先行してきたのである。だが悠斗はキス以上の行為をしようとはしなかった。次第に遥奈は、自分に魅力が足りないのかな・・・やっぱり私じゃだめなのかな・・・と自信喪失状態に陥り始めていた。徐々に曇りを見せる遥奈の笑顔に、悠斗はすぐに気がついていた。
「どうかしたの?気分でも悪くなっちゃった・・・?」
彼は本当に心配そうに声を掛ける。遥奈は一瞬はっとした表情を見せたが、すぐに意を決したように
「私じゃだめですか・・・?私を抱いてもらえないですか?」
最後の言葉は涙声となっていた。悠斗は全てを察していた。と、遥奈の両肩を抱き、自分へと引き寄せる。一瞬の行為に遥奈は何もできず、ただ悠斗の胸に抱かれていた。
「俺に遥奈を抱く権利なんて無いと思っていた。俺は結婚もしているし、歳だって離れている。住んでいる距離も遠い。もし遥奈を抱いてしまったら、貴女を忘れられなくなるだろう・・・。怖かったんだ。でも約束したよね?遥奈に女としての幸せを感じて欲しいって・・・」
そういうと、悠斗は遥奈に唇を重ねた。そのキスは今までのどんなキスよりも深く、慈愛に満ちていると遥奈には感じ取れた。ふと悠斗の体が遥奈から離れる。彼は遥奈の目に訴えた。遥奈もそれを察し頷く。二人は一路、車中の人となった。


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