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異界幻想
【ファンタジー 官能小説】

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異界幻想ゼヴ・セトロノシュ-18

 平凡な人生に戻るための簡単な手段を使わず、あえて面倒な道に行った理由。
 自分はどうやら同じ地位を受け継いだらしいので、同じ道を歩めば何かが見えてくるかも知れない。
 まあ……仮にペンダントを捨ててここから逃げても、言葉が話せない文字が読めない通貨は一銭も持っていない自分なら、間違いなく今までより厳しい環境にあるこの世界では程なく野垂れ死ぬのが関の山だ。
 ならば少なくとも生活基盤ができるまでは、比較的安全な庇護が得られるであろうここに留まる方が賢い選択と言える。
 賢い選択と言えるのだが……その対価を考えると、気が重い。
 多分毎日とは言わないだろうが頻繁に天敵との戦闘があるだろうし、訓練として神機へ乗り込む事もあるだろう。
 そしてその度に、あんな狂乱状態へ陥る事になる。
 何をしても何をされても実を結ばないという保証があるとはいえ、ティトーと……下手をしたらジュリアスとも、あの狂態を分かち合う必要があるのだ。
 どうやらあの狂乱状態は代々受け継がれている仕様らしいが、三人にどう思われようと自分は気が進まないというのが本音である。
 しかし、ジュリアスに抱かれるまで自分を苛んだあの感覚は、宣告通りに自分一人での解消は難しい苛烈さだった。
「……覚悟を決めろ、って事ね」
 何となくまとまった取り留めのない思考を呟いてから、深花は体を起こした。
 多少気は重いが、体は軽い。
 今日がどんな一日になるかはまだ分からないが、どうなるにせよ覚悟だけはできていた。


 そんな覚悟を無駄に思ってしまうくらい、午前中はあっさりしたスケジュールだった。
 簡単に朝食を摂った後は四人で街に出て、あてがわれた部屋に置く家具の買い出し。
 それが済んだら古着屋へ行き、普段着を買い漁る。
 男二人に買い込んだ服を持たせたら、フラウと一緒に少々お高い値段設定と思われるブティックへ。
 そこで、下着類とドレス数着を購入。
 最後にドレスと合うアクセサリーを買い揃え、午前は終了だった。
 こってりしているのは、午後である。
 軽い昼食を済ませた後、今日はティトーと組んでフラウとジュリアスを相手に非公開での組み手だ。
 土の最高位、ミルカが帰ってきたというのは早くもそこここで囁かれているが……ティトーと上層部の間では、レセプションを開いてお披露目するまでは深花の存在を伏せておく事で話がついているらしい。
 しかし非公開とはいえ、記録と記憶にしか残されていないミルカの力を試すためのかなり重要な一戦ではあるから、上層部の人間が一人視察に来る。
 会場は、居住区から離れた場所にある草原。
 視察役は戦闘職の出身である事を窺わせる、四十代始め頃の筋骨隆々とした大男だった。
 ティトーもジュリアスも平均より背が高いのだが、この男はティトーよりさらに頭一つ分高い。
 見事に剃り上げた禿頭に、浅黒い肌。
 鼻と口の間に唇の横幅分だけ蓄えたヒゲと眉毛は黒に近い濃い焦げ茶色で、目はやや暗い黄色をしている。
 身に纏った軍服にはじゃらじゃらと勲章がぶら下がり、過去の栄光を如実に表していた。
「お主がミルカか」
 男は外見にふさわしい威圧的な声でザッフェレル大佐と名乗り、ティトーの脇で萎縮する深花を睨め付ける。
「主の知らなかった過去の出来事をうんぬんするつもりはない。ただ主の紡ぎ上げる実績によってのみ、主の祖母が犯した罪が償われるであろう」
 ザッフェレルはニヤリと笑ったが、その笑顔は猛禽類を思わせる恐ろしいものだった。
「これは我々上層部の見解に過ぎん。一般市民や王室の方々がどう思うかまではあずかり知らぬ所だ」
 深花が内心怯えているのを感じ取ったティトーは、さりげなく前に出る。
「まあまあおっさん。とりあえず古巣に帰って来たんだから、堅苦しい事言わないでリラックスしときなよ」
「リラックス、とな?」
 ザッフェレルは、低い声で笑った。
「報告を受けた時は、興奮で眠気が吹っ飛んでしまったのだがな」
 それを聞いたティトーは、フッフッと笑う。


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