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Island Fiction
【SM 官能小説】

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Island Fiction最終回-9

「あのね……、実はね……、屋敷の使用人たちは薬を併用しながら洗脳されていたけど、わたしたち姉妹には薬も洗脳も使われなかったの。何故だと思う?」

アザレアの出血はかなりの量に達している。
薬の効果がなければ、もがき苦しんでいることだろう。

もっとも、苦痛の代わりに湧き上がる情欲も枯れ果てていた。
凍り付いたような顔に笑みを作ろうとして、それが却って痛々しい。

「それはね……、お父様が、わたしたちを愛してたからなのよ」

「面白すぎて、涙が出そうになる」

「幼いわたしたちと共に暮らして育てるうちに、情が湧いたのかしらね……。わたしは今でもお父様を愛してる。この思いは誰のものでもない。わたし自身のものだわ」

都合のいい解釈だと言わざるを得ない。
長年にわたって屋敷の中で幽閉され続けてきた人間の考察とは思えない。
しかしながら、長いトンネルから抜け出たように、わたしの視界は晴れ渡った。
不思議だ。
湯島は怪しげな術で人々を欺き、手込めにした。
別の場所でそれぞれ生まれたわたしたちを連れてきて、世間から隔離し、偏った教育を施した。
それは紛う事なき事実だ。
わたしたちの人生を狂わせた。
まともな人間のすることではない。
鬼畜の所業だ。
万死に値する。
それなのに安堵感がわたしの体を軽くした。

アザレアはゴホゴホと何度か咳き込み、最後は真っ赤な血を吐き出した。
「ガァァ――ッ」と呻きとも取れない声を発した。
足の先まで力み、体をしならせた。
そして、緊張が頂点に達すると、急激に脱力して事切れた。
イッてしまったようだ。


結局アザレアは最後まで、命乞いをせず、懺悔もせず、独りで快楽を貪って勝手に逝ってしまった。
辞世の句を残すこともなかった。


わたしはついに独りぼっちになった。


アザレアが残したパソコンで「ガルシアの首」を一人淋しく鑑賞した。

どうせなら「戦争のはらわた」で人生の最後を締めくくりたかったな、と詩的なことを考えてみたり、「ゲッタウェイ」で頭を空っぽにするのも悪くなかったな、と若干後悔したりもした。

わたしの思考はサム・ペキンパーから黒沢明、深作欣二、クウェンティン・タランティーノを経由して、キューブリック、オーソン・ウェルズ、ドン・シーゲル、ジャン・ピエール・メルビル、ジャン・コクトーと迷走して、ゴダール、トリュフォー、ヴィム・ヴェンダース、そして小津安二郎へたどり着いていた。

アザレアの言う記憶の連鎖反応とはこういうものなのだろうと、勝手に解釈した。


建物の屋上に立った。
かつて湯島製薬の研究所だった建物だ。

映画の余韻に浸りながら、自然の景色を眺め、潮風に当たった。
映画館を出た直後のフィクションとリアリティーの狭間にいる感覚がわたしは好きなのだ。

日本海の荒波が見渡せた。
五年ぶりの景色は何ら変わりがなかった。


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