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月夜と狼
【幼馴染 恋愛小説】

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月夜と狼-8

俺は牙を見せて低く唸ってみせる。近寄って欲しくない。
(言葉はしゃべれないのに、こういうことはなんとなく分かった。本能ってヤツ?)
でも、ヤツはなんの躊躇もなく距離を詰め、俺の首に頭をすり寄せてきた。

ああ、敵意はないんだ。
あれ?コイツ……。
俺、コイツ知ってる……。

「浩太?」

土手の上には父さんが立っていた。

「そうか。おいで」

犬は俺を促すように鼻先で俺を父さんのほうへ押した。


父さんは屈みこんで俺の目をのぞいた。

「大丈夫だよ。満月が沈めばお前は元の人間に戻るよ。これからは満月の月の出てる間はお前は狼の姿になる。ただそれだけのことだよ」

父さんの手が頬を撫でた。

それだけって…。
あ。狼なのね、狼。犬じゃなくて。

「俺も母さんもお前のことが好きだよ。ひとりじゃないよ。それはお前がどんな姿になっても変わらない」

ほっとする。
俺、居場所、あったんだ。よかった。

「まさか、浩太に出てくるとはなあ」
――なに?

「これは、血なんだって。母さんの方のね。隔世遺伝というのかな。時々出るけど二代続けてってのは聞かないから、将来的には話しておかないといけないけど、お前には出ないだろうって思ってたらしくてね」

二代。
てことは。
この犬ってか狼が母さん???

昔の混同していた記憶。
俺はコイツを知ってると思った。
でも。
まさか、それが母親だとは。

「さ、帰ろう」

父さんは家へと歩き出した。

「母さんの前はひいおじいさんがそうだったらしいんだ。その前はひいおじいさんのおじいさんで。お前のおじいさん、つまり母さんのお父さんは女の子がこんな風になってしまったのを不憫に思ったらしいけど、関係ないよ。美哉は美哉だし。ね?」

俺の前の獣は父さんの足に身体をすり寄せて跳ねた。
すごくうれしそうに。

「それが出てくる人は思春期の頃に、突然狼になってしまうらしいよ。母さんもかなり悩んだそうだけど、ね」
――そりゃそうだろうよ。

「これは居直っちゃったモンの勝ちなんだって。何をどうやっても誰にもどうにもできないならソレを楽しまなきゃソンよって。……母さんを恨むかい?」
――それは、違うと思うな。

俺は振り返った父さんの目を見返した。

「俺は狼になりたいよ。美哉と一緒に野っぱらを走ってみたい」

父さんがそう言ったからか、母さんが俺に体当たりをして走り出した。
満月の草原を走る狼は綺麗で楽しげだった。
勢いを殺さず真っ直ぐに俺に突進してくる。

――うわあ。

逃げる俺を追いかけ、跳ねる。
草の匂いのする大地は気持ちよかった。
身体も軽い。
転がされてじゃれて遊んで走って。

「おーい。帰っていいですかー」

父さんが道からこちらに呼びかけた。

人間と二匹の狼の歩く道を月は静かに照らしていた。




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