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春うらら
【ボーイズ 恋愛小説】

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春うらら-1

 夏のラーメンはひとまず、僕には非常にまずく感じる。


 熱いものこそ暑い季節に、という亮ちゃんに乗せられ中国風だかなんだかのラーメンを口にしてみたけれど、すぐに伸びたし暑いのに余計暑く感じるしでとりあえず僕には向かないということがわかった。
  
 当の僕をはめた本人は、それはもう、まことしやかに実にうまそうに冷やし中華を食べているというのに。ああ憎い。


「せめてその卵の部分をよこしやがれ」
「卵?卵はダメ。俺のオアシスだもん。カレーでいう福神漬けのような存在なんだよ俺にとって。ほれ、キュウリならやるわ」
「いらねえよ。っくそ、騙された俺が馬鹿だった」
「だましてないだましてない、うまくね?それ」
「伸びて最悪、麺硬い、しかも野菜邪魔。ついでに暑い」
「暑いぐらいでグチグチ言うなよ。夏は暑いから夏なんだろ」
「なんでわざわざ自分から余計暑くさせにゃいけねんだよ」
「え?それはぁ、暑っ、もう嫌だ服なんて脱いじまえーっ……てな展開を期待してるからに決まってんじゃん」

 馬鹿だね君は、と亮ちゃんは僕にハムを分け与える。
 馬鹿は君だよとは気の弱い僕はそれ以上言えず、黙ってハムをつついた。


「うまい?」

 悠々と卵を口に運びながら亮ちゃんは訊いてくる。

「まあまあうまい」
「うまいんじゃん」
「ハムがね。このラーメンはまずい」
 そのコメントに多少の業を煮やした亮ちゃんが顔をしかめた。
「そんなことないだろ、俺が作ったんだから」
「亮ちゃんが作ってもまずいもんはまずいよ。それに亮ちゃん料理なんかできねーじゃん」
「俺だってインスタントくらいまともに作れるっての。……なあ、俺たちってもしかして合わないのかな」
「は?」

 亮ちゃんの顔が急に真顔になる。
 それよりいきなり何を言い出すんだろうこの人間は。

「だって大事じゃん。食べ物の趣味とかさ、笑いのツボとか?……俺たちもう終わりだな」
「はぁ、そう」
「ホラ、俺はここで止めて欲しいのにつっこまないとことかさ。もう愛情がないのかな俺に対して」
 

 うざってぇ。
 またなにをいきなり茶化して遊んでるんだろうかこいつは。
 ことの真理を図りきれないでいると、亮ちゃんは唐突に僕の名前を呼んだ。
 なに、と睨むと僕の背中に手が回った。そのままぎゅっと抱き締められる。そしてこれまた唐突に、近寄せられた顔にキスをされた。


「……んな」
「な、愛情があるなら示して?こーゆーふうに」
 耳元で囁かれて大変くすぐったい。
「んなことできるか!」
「えーしてくんないの?じゃ、俺からしちゃうよ」
「なっ……や、やめ」

 不穏な空気が僕を包む。


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