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God's will
【その他 官能小説】

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Suicide-6

 <僕>は通りを歩く。首吊り死体だらけの街を歩く。やがて留萌川の河川敷に辿り着き、そこをまっすぐに進む。その辺りには首を吊るべき建造物がないので、辺りに死体の姿はなく、変わらぬ留萌市の姿がそこにはあるように映る。さらにずっと河川敷を歩いていくと、道が途切れる。左手にはバンゴベと書かれた案内板がある。案内板は全てが老朽化した街の中にあって、唯一の新品のように見える。誰かが立て替えたとしか思えない。塗りたての青いペンキの上に、白くバンゴベとある。<僕>は案内板の向こう側を見やるが、いったいどこからどこまでがバンゴベであるのか判断がつかない。案内板の向こう側には林と川の流れが広がっているだけだ。

 <僕>はしばらく立ち止まって、その案内板を見つめ、それから迷うことなくバンゴベ区内に向けて足を進める。理由は特に無い。何も考えず、砂利の敷かれた狭い道を歩いていく。辺りには首吊り死体の姿は無い。生物の気配が無い。虫の鳴き声も、小鳥のさえずりも何も無い。

 やがて、砂利道が大理石のタイルへと変貌を遂げる。<僕>はぎょっとして立ち止まり、その境目を見る。砂利道と大理石のタイルは不自然に同居している。大理石のタイル側に体が入り込んでしまうと、ふいに虫の鳴き声が聞こえる。近くを流れる川の水流の音も聞き取れる。辺りの景色は先ほどより少しだけ明るくなったようにも感じられる。時間が突然進み始めたかのように、雲が流れているのを目にすることが出来る。<僕>は思い立って、もう一度砂利道へ戻ってみる。すると、先ほどと同じように辺りがしんと静まり返る。なんだこりゃ、と<僕>は思う。

 ふいに目を覚ます。



 カーテンの隙間から射し込む陽光が眩しい。<僕>は立ち上がり、階下へ行き祖母の作った卵焼きと味噌汁とご飯を食べる。毎朝同じメニューだ。祖母はもともと料理が得意ではない。とはいえ、突然やってきた<僕>を拒絶することなく快く迎え入れ、こうして食事を作ってくれているのだから、なにも文句は言えない。文句を言うくらいなら、自分でつくりゃいい。でも<僕>は面倒くさいので祖母の作った甘すぎる卵焼きを食べ、しょっぱすぎる味噌汁を飲み、柔らかすぎるご飯を口へ運び、濁った麦茶でそれらを胃へ流し込む。いつもならば、そのまま自室へ行き、布団にごろりと横になり、また眠りが訪れるのを待つのだが、その日は違っていた。<僕>は顔を洗い、ちゃんと髭をそり、歯を磨いた。一ヶ月ぶりにジーンズを履き、白い清潔なシャツを着る。

 いつも通りに庭で何事かをしていた祖母に「ちょっと出かけてくる」と言うと、「行ってらっしゃい」と祖母は笑顔をつくっていった。「夕飯はいるのかい?」「いるよ、そんなに遅くならない」と<僕>が言うと、「気をつけて」と祖母は言う。

 そんな短い会話の中に、<僕>はふと心が温かくなる何かを感じ取る。そして、その何を祖母も確かに感じていて、それを何とか大切にしようという意思が伝わってくる。ああ、そうだったか、と<僕>は思う。

「行ってきます」と笑顔で<僕>は言う。

 行き先は、勿論バンゴベだ。あそこには何かがある。あの大理石のタイルの上が、そしてそこから続く場所が、恐らくは<僕>を時の流れの中へ戻すんだろうという予感を、胸の中に確かに感じる。


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