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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(2)-5



僕は一滴も飲まない。というよりも飲めないの方が的確だろう。一年の新歓で浴びる程飲まされ、翌日からすさまじい二日酔いに苛まれた経験があるのだ。

いくら素面のままテンションを上げようと、酩酊状態のそれには遠く及ばないことは明らかで、二次会に突入する一行を止める術を僕は持たなかった。会計という立場から行かない訳にも行かず、僕は渋々重い腰をあげるのだった。
「ちーくん先輩!」
「ん?」
振り返ると先ほど見事な天然をかました葵ちゃんがいる。
「それ呼びにくくない?別に無理して使わなくてもいいよ」
「ん?そうでもないですよ?」
「まぁ君がそういうなら、それでかまわないんだけどね」
「ふーん。じゃあちーくんだけで呼んでもいいですか?」
「ん?うん。もうどっちでもいいよ」
一行はカラオケに向かおうと夜の街を歩いていた。四月も半ばだというのに、闇に流される風は冷たい。
「うぅ、さむいですねぇ」
「うん、寒いね」
「あ、今のちーくんの寒いねって、本当に寒そうでした!でも私の方が寒いです!」
なんとも元気のある子じゃないか。うん。千明にそっくりなことを言う。

カラオケに来た一行の人数は約20人。半数は新入生で、もう半数は在校生だ。木村さんと田中の姿もある。僕の隣には千明もいる。
「それでは栄えある二次会を始めたいと思いまーす!」
木村さんの張り切りようは異常だった。常日頃からテンションは高いひとだったが、今日のハイテンションははじめて見た。新入生の女の子に何か言われたのかもしれない。
「ちーくん、ちーくん」
「ん?」
「あんなぁ、いいにくいねんけどなぁ」
もじもじと千明がなにかを伝えようとしている。そういえばさっきからだまったままの千明。それもめずらしいことだった。
「どうしたの?なんかあった?」
「おしっこしたい」
前言を撤回する。やはりいつもの千明だ。
「トイレいってきなよ」
「一人じゃ嫌!」
「なんで?」
「ちーくんの側離れたない!」
時として、千明はこうなるときがある。ハーレ彗星のようにひゅうとやってきて、気づいた時にはいなくなってることが多いのだが、この時の彗星千明は珍しく長生きだった。しかたない。ちょうど煙草も吸いたかったし、もう周りもなんやかんやと騒いでいるから差し支えないだろう。わかったと一言声をかけ千明の頭をそっと撫でて立ち上がる。それに続いて千明もそっと立ち上がる。右手を伸ばし、僕の左手にからめた。

「ぜっっっっっっったいやで!トイレ終わるまでここにいてな!!絶対やで!?」
トイレの前でそう大見得を切って千明がトイレに入ったのは5分前だ。煙草も吸い終え、手持ちぶさたに僕は千明の帰りを待っていた。
さすがに遅いな、と心配し始めた所に、葵ちゃんが姿を現した。まだ幼くも見えるその顔は、お酒を飲んだのかもしれない、少し紅かった。足取りは怪しい。たどたどしく歩くその姿は、生まれたての子鹿を思わせて、僕はそれを可愛いと思った。
「あ、ちーくん。ちーくんもトイレですか?」
「僕はつきそい。今こもってる奴のね」
「ん?だれが入ってるんですか?」
「千明」
親指で指し示すと葵ちゃんは不思議そうにドアを覗きこんだ。物音一つしないトイレには、しっかりとカギがかかっていた。


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