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恋愛小説
【純愛 恋愛小説】

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恋愛小説(2)-6

「ちーくんと千明先輩って、仲いいですねー」
「そうみえる?」
「え?仲悪いんですか?」
「どうだろうね」
「否定しないんですね?」
「それを決めるのは、僕ではなくて千明だからね」
僕は煙草を取り出しくわえ、火をつけた。一息吸い込むと勢いよく吐き出す。すっと肺の中に何かが落ちていく感触がある。
「煙草吸うんですね」
「ん?あぁ、ごめん」
「あ、いいんです。私、煙草吸う男の人、嫌いじゃありませんから」
「そう?無理しなくていいよ」
「ははっ、大丈夫です。ちーくん、礼儀正しいんですね?」
礼儀正しい人間はそもそも、吸わない人の前では煙草を吸わないのではないかとも思ったが、それを口に出す事を僕はしなかった。
「それに、かっこいいですよ」
「ん?」
「煙草。ちーくん、似合ってます」
ほろりと落ちる灰を気にしながらも僕はハッとさせられた。そう言った葵ちゃんの眼には僕が写っていた。




「うぅー、ちーくぅーん。気持ち悪いー」
そう言いながら出てきた千明の顔は真っ青で、今にも倒れそうな顔をしていた。
「あぁあぁ、飲めもしないのに飲むからだよ。大丈夫か?」
「大丈夫じゃないかも」
「あ、ちーくん、私お水貰ってきます」
葵ちゃんがそういってカウンターの方へ駆けていく。良く気がきく子だな、と僕は素直にそう思った。
「……あの子」
「ん?」
「ちーくんのこと、ちーくんって呼んでるん?」
「うん。みたいだね」
うぅ、とうめき声をあげる千明は、いつか見たみたいに、弱々しい小動物を思わせる。
「……なんか嫌や」
「え?」
「いやや!」
「どうしたんだよ急に?」
「ちーくんは私が考えたちーくんやもん!なんか嫌や!!」
「どういう意味だよそれ。」
「わからへん。けどなんか嫌やねんもん」
水の入ったコップを抱え、葵ちゃんが小走りに帰ってくるのを、僕は視界の端で確認しながらなるべく千明の機嫌を損なわないように務めるしかできなかった。それが成功したとは言えないけれど。
「ちーくん、お水です」
「あんたがちーくん言うなぁ!!」
「ちょ、おい千明!?」
「ちーくんは私が考えたんやんもん!ちーくんをちーくんって言っていいんは、私だけや!」
勢い良く起き上がった千明は、その勢いを自分で支える事が出来ずにその場に崩れた。拍子にぶつかってしまった葵ちゃんが、思わずコップを手放してしまいコップは地面に当たって転がった。むろん、中の水は川の流れを作って飛散した。
千明は動かなかった。泣いているのかもしれなかった。肩を震わせ、何かに必死に耐えている様にも見えた。僕は葵ちゃんを無言で促して部屋に帰らせた。このまま戻るわけにはいかない。ここはまかせて、葵ちゃんは戻って、と僕は眼だけでそう訴えかける。そっと、でも困惑した表情を見せながら変える葵ちゃんの表情は、どこか哀しそうで、どこか満足げに見えたのは、僕の気のせいだろう。



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