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God's will
【その他 官能小説】

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A man who doesn't have one's dominant arm-4

 二人が帰った後、僕はふすまを開け、寝室へ入った。ルカは僕が出て行った時と同じ体制でそこにいた。僕はルカの隣に腰を下ろす。そして、由佳さんに言われたことを考える。<ルカはもういないの。あなたが自分の意志で決めるの>。僕は北海道帯広市にやってきた時の事を思い出す。それから、ルカに恋人が出来てからの退屈で平穏だった九ヶ月間の事を思い出す。僕は短期大学に入学したときから、ルカに依存していた。僕は僕自身の意志で決めてここまでやって来たような気がしているが、それは違っていたのかもしれない。いつだって側にはルカがいて、僕が決断を下すときには、必ずと言って良いほどルカの存在が影響していた。あの一人ぼっちの九ヶ月間を与えたのすら、ルカだった。ルカは木村修という恋人を作ることによって、僕の元を去った。そして、強制的に一時的な依存が不可能となったのだ。だからなのか、と僕はベッドの上で静かに目を閉じているルカに心の中で問いかける。だから君は、僕から離れていってしまったのか? 死者は喋らない。僕はルカの姿を見つめていて気づく。ここにあるのはルカではなく、ルカの肉体だけなんだ。ルカの精神は崩壊したか、どこか別の遠い場所へ行ってしまって、ここにはその抜け殻だけがあるんだ。空っぽの抜け殻。かつて、ルカであったもの。僕の全てであったもの。

 死とは一体なんだろうと僕は考える。それは、気づいていなかっただけで僕らのすぐ側にあるもの。生と死の狭間には何かがあるのだろうか。それとも、その二つの場所には明確な境目などないのだろうか。生と死は砂時計みたいなもので、細い管を通じて実は繋がっているのだろうか。砂が一方通行にしか落ちないのと同じように、その間を自由に移動できないだけで、実はその二つは同じ場所に存在しているのかもしれない。僕はふとBlankey jet city のSALINGERという曲の一節を思い出す。



生きてる時と死んでる時が実はそんなに変わらないことだとしたら

Baby それとももっとよかったりして

噴水とびあがった水 落ちてしまうまで短いと感じるのか

それとも長いって感じるのか



 でも、その砂時計を逆さまに置く方法があるのだろうか。そして、上下が逆さまになった砂時計が、先ほどとは反対側の容器に砂が溜まっていくように、死から生へと転換する方法があるのだろうか。例えば、あの二人の話を信じるならば、由佳さんのように。

 僕には人が生き返る事なんて想像できない。テレビゲームじゃねーんだ、と僕は呟く。そんなの信じられねー。と呟く。

 よし。現実的に物事を考えよう、と僕は思う。死から生への転換方法を砂時計をモチーフとして想像することもやめる。死ぬこととは一体どういう事象なのかについて考えることもやめる。

 僕はルカを殺し、木村修を痛めつけた。どうして僕がそんなことをしたのか、明確な理由については分からないが、事実そうした。そして、法的に言えば僕は確実に裁かれることになる。有能なのか無能なのかは評価の分かれるところである日本の警察だって、一人の女の子が絞殺され、耳をそぎ落とされた若いBボーイが、マジあいつ信じられねーから。あいつがその女、殺したんですよ。マジですって。と、手振りを交えながら証言したら、まあ、確実に僕は捕まるだろう。そう考えると、僕は早いところ行動した方が良いような気がする。あの山中での木村修は完全に戦意を喪失していたが、山を下り、冷静な頭で考えると僕のことをぶち殺したくなるかもしれないし、ぶち殺されないまでも、僕の邪魔になる可能性は間違いなくある。

 このまま警察に捕まってしまうよりは、あの二人と行動を共にしたほうがいい。そう思った。ちょっと頭のおかしい連中で何言ってるのかは正直訳が分からんが、とりあえず悪い人間ではないように思える。

 そして、何より。それがどんなに突飛な提案だったとして、僕は確かにもう一度ルカに会いたい。僕はそれを強く願う。ルカが手紙の中で、中絶した子供に会いたいと切実に願ったように。




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