＃02 研修旅行――初日-15
「やあ。こんばんは」
「き……岐島、かよぉ」
私は肩の力が一気に抜けるのを感じた。そして、続いて沸き立つ感情は『苛立ち』だ。
「んのヤロっ！タバコが中途半端で消しちまったじゃねぇか！」
「それは失敬。けれども、煙の残り香で喫煙行為はばれてるよ。来たのが俺じゃなければね」
「うっせっ」
「ふっ……」
珍しく、口端を歪めると岐島は私の了承もなしにいきなり私の隣へと腰を下ろしやがった。
仕方なしに、私は少しだけ腰をずらし、ふたり分座れるスペースを作ってやる。
チラッと目の端で岐島を観察する。
皆、ジャージを着ているっていうのにコイツは部屋の棚の中にあった浴衣を着てやがった。別に違反じゃないが、とことん天邪鬼な男である。
肩までの艶やかな黒髪はしっとりと濡れており、男のクセに妙な色気があった。もしかしたら、男女やクラスで入浴時間が違ったから、いまさっき、風呂に入ったばかりなのかもしれない。
しばらく、沈黙が続いた。けど、そんな嫌な空気ではない。
私は岐島にふと訊ねてみた。
「そういえば、なんで屋上に着たんだよ？」
「いや、フラフラとしていたらいつの間にかね」
「煙か、おまえはっ？」
「きみだけには言われたくないよ」
「私は煙じゃない！」
「知っている」
「バカでもねぇからな！？」
「……。知ってるよ」
「ぅ、く……。……ちっ」
私は言葉につまり、舌打ちした。
頬が熱いのはきっと、照り返しで気温が高いせいだ。そうに決まっている。
岐島は私を視界に収め、いつもの無表情で続けた。