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God's will
【その他 官能小説】

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27万6352分の1の価値-3

帰り道は時速九十キロで飛ばした。急いで帰ろうと思っているというよりは、仮に事故って死んじゃってもまあ別にいいやという気分だったからに他ならない。日は暮れかけていて、対向車の中にはヘッドライトをつけているものもいる。僕はスピーカーから流れるDir en greyのVINUSHKAを聴きながらハンドルを握っている。

体はとても疲労していて、体は鉛のように重かった。頭がなんだかぼんやりとしていて、運転になかなか集中できない。しばらくの間は我慢して運転していたが、やがて限界を感じた僕は途中にあるローソンでブラックの缶コーヒーを買い、そこの駐車場に車を停めてエンジンを切り、ゆっくりと飲んだ。煙草を一本吸う。缶コーヒーのカフェインでは思うように頭がしゃっきりとはしなかったので、僕は運転を諦めて少しだけ眠ることにする。駐車場の端っこのほうに車を停め直し、シートを倒して目を閉じる。

これから僕は何をすればいいのだろうだとか、木村修は今頃山を降りただろうとか、そんなことを考える余裕はなく、僕は倒した車のシートに沈み込むようにして、すぐに眠りについた。

混沌とした宇宙に漂う惑星の欠片みたいな眠りだった。僕の意識はブラックホールに飲み込まれてしまったように全くの無で、僕の体は海中でゆらめく海草のように眠りに翻弄された。何一つ夢を見なかった。国道を走るトラックの音にも目を覚ますことはなかった。



気がつくと、脳みそが頭から十センチくらいの上の空中に浮かんでいるような気分になった。しばらくの間、視覚からの情報を上手く処理することができなかった。辺りは真っ暗になっていた。ハンドルがある。フロントガラスからコンビニエンスストアの壁が見える。そしてふいに十センチ上の空中から僕の脳みそは元あるべき場所に戻り、そしていろいろなことを思い出す。色々あって、疲れ果てて、ローソンに車を停めて眠っていたんだ、僕は。

車を降りると夜の冷えた空気が僕の体を包み込む。僅かに雨が降っていて、空を見上げると星は一つも見えない。国道を走る車の音がやけにクリアに聞こえる。先ほどに比べて、体は随分と軽くなっていた。もう一度ローソンで缶コーヒーを買い、それを飲むと頭も少しずつ、くっきりとしてくる。帰ろう、と僕は思う。エンジンキーを回し、ヘッドライトをつけ、ギアをDに入れる。アクセルを踏む。



コーポグリーンパレスの外観には当たり前だけれど変化はない。僕が選んだ帰るべき場所は、自分の家ではなくルカの家だった。現実的に考えて、ルカの死体をいつまでも放置しているわけにはいかないからだ。僕はこの後警察に行くのだろうかとか、そんなことを考えながら帰り道を運転してきた。答えは出なかった。

駐車場には車が五台止まっていて、全ての窓の明かりが灯っている。全ての窓の明かりが灯っている? 僕は目をこすり、もう一度コーポグリーンパレス201号室、つまりはルカの部屋の窓を見る。二階の一番左側の窓がそうだ。間違いなく明かりが灯っている。僕は家を出る前に明かりを点けっぱなしにしていただろうかと考える。いや、それは違う。僕が木村修と合流するべく家を出たのは昼過ぎくらいだったし、明かりを点けているはずはない。誰かがいるんだ。あの部屋に。でも、一体誰が?


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