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God's will
【その他 官能小説】

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宛先のない手紙-3

 私は弱い人間です。私は怖かったんです。まだほんの小さなあなたの存在が。そして、何よりもその後の生活が。私の恋人が何の励みにもならない事を知った時になって、私は一人ぼっちであなたを生み育てる事についても考えてみました。でも、それはできませんでした。中絶をしている女性なんてこの世界には腐るほどいるという事実も、私が中絶を選ぶ要因になったような気がします。

 人は弱いんです。あなたが簡単に殺されてしまうような弱い存在であるのと同じに、私たちはとても弱くてもろい存在なのです。都合よく、皆と同じであればそれほど不安にならないんです。他に中絶をしている人たちなんてたくさんいる。仕方ない。仕方がなかったんだ。そう思えるようになります。残念ながら、私のように妊娠して捨てられた女性の大半は、中絶を選ぶでしょう。出産と中絶のどちらが正しいのかなんて、誰にも分からないのです。ただ一つ言えることは、その二つを比較し、選択するときにはどちらが正しいとはいえないけれど、中絶という行為そのものだけをとってみると、それは少なくとも決して正しいことではないのです。

 

 中絶を決意した私は同意書に記入しました。中絶の際には子供の両親の同意が必要となります。私は正直余り会いたくなかったのですが、恋人に同意書を記入してもらいに行きました。責任の一端を少しでも感じればいい、とも思ったのですが、それは見受けられませんでした。妊娠はあくまで女性の体でしか起こらないから、だから男性側にとってはいまいち現実感も沸かないし、それが原因で責任感も感じないのかもしれません。勿論、人によるとは思いますが。

 私の人工中絶手術は妊娠十一週未満の初期中絶というものでした。私は同意書と手術費用と入院費の十二万円とその他の必要なもの、生理用ショーツやナプキンなんかを指示通り持って病院へ行きました。

手術前日にラミナリアという海草で出来た器具を子宮口へ入れます。ラミナリアは水分を含むと膨らむので、それで子宮口がゆっくりと開くのです。夜、病室のベッドの上で私は明日の手術のことを考えていました。まだ膨らんでいないお腹に手を当て、ごめんね、とあなたへ向けて心の中で言いました。でも、多分この時の私には本当の意味で中絶するということがどんな事なのかわかっていなかったんだと思います。それがどれだけ悲惨なことなのか。それが、どれだけ哀しいことなのかを。

 翌日は手術着に着替え、生理用ショーツを脱ぎ、内診台のような特殊な形の手術台へと上りました。足をベルトでしっかりとくくりつけ、点滴を打ち、全身麻酔をかけられます。

 そして、目が覚めると全ては終わっていました。全てはあっという間の出来事でした。私はフラフラで目覚めても上手く歩くことは出来ず、しばらく病室のベッドで休みました。



 手術が終わった次の日、私の母親が家へ来てくれました。母は仕方なかったんだよ、と慰めるように私に言いました。そのほかにも色々と私を慰めるようなことを母は私に言い、それが私のために言っていることを私はちゃんと分かっているんですが、でも本当はそんなの全然私の慰めにはなりませんでした。悪いけれど、母親が私に言うことは的外れなことばかり。ルールのないにらめっこみたい。



 そして、その次の日曜日、私は中絶について調べました。それをした私自身は、まさにあなたが殺されるその時、薬の力でぐっすりと眠っていたんです。そんなのってフェアじゃない。だから、私は私自身何をしたのかを確認するために、インターネットを通じて中絶について調べました。中絶の動画を見ました。



 一枚目の手紙はそこで終わっていた。僕は二枚目に目を通す。




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