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描き直しのキャンバス
【学園物 恋愛小説】

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描き直しのキャンバス-15

 彼は色白だ。
 前髪の生え際に黒子が見える。よく見ると二重だったみたい。
 彼はひび割れが多い。
 手はあんなに柔らかいのに、どうしてこんなに私を刺すの? ハッカの味がするのはどうして? 無糖ガムは嫌いなのに……
 ――はるか君、僕はそんなこと……出来ない――
 ――絵を描くのにモデルは必要じゃない――
 ――まがりなりにも僕は教師で……君は生徒――
 ――今は顧問と部員でしょ? ――
 ――同じことだ――
 ――ふーん、それじゃ先生は私をそういうふうに見てるんだ――
 ――……――
 ――嬉しいな、私のこと女として見てるんだ――
 ――君は魅力的だから――
 ――私、先生が好き。先生に私の全部を描いてもらいたい――
 ――はる……か……君――
***
 その独白が終わるまで十数分、秀人は瞬きしながらも、彼女から視線が離せなかった。
「君が使おうとしてたキャンバス、彼のなの……私が描かれる予定だったんだけどね」
 はるかは秀人の首筋に手を回し、体重をかける。そして背筋を伸ばす。
「あの黄ばんだシミ、彼のなんだ……」
 胸に顔を埋めるようにしゃがみこむ。垂れていた足が秀人の腰の辺りで交差する。
 もう一度背筋を伸ばすと、リボンタイを外した隙間からスポーツブラが見えた。白と水色のストライプ、柄の所為か横に太く見えるが、順調に膨らみを持っている。
「男と女だもん、そうなって当然でしょ?」
 首をかしげ、顔をくしゃくしゃにするはるか。髪の長さこそ違うが、自画像のそれに似ている。
「こんな感じになっちゃうの……分かるかな、秀人君に……」
 リズムが早くなると、椅子の足がカツンカツンと高い音を立てる。
「男って単純だよね? こんなことで私のこと魅力的だの、女神だの言うんだもん」
「俺は……」
 唇が乾いて、開くと痛い。だけどなにか言わなければならない気がした。
「アイツ、私達の関係がバレたのをきっかけに、非常勤をやめるなんて言い出したの。いなくなる方はいいわよね、残されたほうは晒されるっていうのにさ……」
 今度はうってかわってにっこり微笑む。
「君もシタイ? いいよ、そのつもりだったし……」
 ブラウスのボタンを二番目から順に外す。
「誰でもいいって思ってた。寂しさを紛らわせるならね……。でも同学年の男子は皆噂知ってるし、サセ子って言うの。失礼よね」
 スカートのファスナーに手をかける。
「私は意地でも高校やめないって思ったけど、一人でいるのって結構辛いんだ。あんな奴でも、いなくなるとよくわかる」
 秀人の左手を取り、胸の谷間、中心よりやや左に押し付ける。
「一年生の子なら噂も知らないし、君のような優柔不断で、なんでもいう事聞いてくれる子を探してた。彫像を持って往復するの大変なんだから……」
 手のひらに伝わる心臓の音。やや早く、だんだん早く。
「私の本当のこと教えてあげたんだから、代わりに君は私のモノになりなよ。彼の代わりになって……」
 左手を通して伝わる振動は非常に速く、リズムも乱れている。
「絵を描くフリするより楽しいよ」
 はるかは左手の力かげんを確認すると、手を離し、代わりに秀人の頬に当てる。
「……います……」
 秀人は何かを呟きながら、左手ではるかを抱き寄せる。
「あは! やっぱり君も男の子だ……」
 嘲笑うような歓声を上げるはるかは、秀人に身体を押し付けようにモゾモゾと動く。
「秀人君は初めてだよね? なら私に任せなよ……」
 抱き寄せたハズの左手ははるかを愛撫しない。それどころか、その動きを封じるように、力強く締め付け、代わりに右手がごそごそと動く。


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