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描き直しのキャンバス
【学園物 恋愛小説】

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描き直しのキャンバス-13

***
 はるかは手鏡すら使わずに輪郭を描く。
 自分の顔であっても迷いが無い。
 目が加えられる。
 はれぼったい野暮な目。本物より少し垂れ目気味。それは可愛らしいものではなく、泣きはらした感じがする。
 耳。
 髪がかかっておらず、可愛らしくとがっている。
 鼻。
 少し低く描かれている。鼻孔が大きく描かれているのは何故だろうか?
 口。
 先ほど秀人が描いたものと同じく、下唇が潰れている。
 額を覆う前髪が無い。というより、髪が全体的に短い。
「先輩?」
「ちょっと前までのアタシ……。君が知りたがった頃のアタシ……」
「もういいですよ、そんなこと」
「君が良くても私がよくない」
 ようやく手を止める。出来上がったのは泣いている少女……だろうか?
「どう見える?」
「先輩です」
「それだけ?」
「泣いて……ます」
「そうかしら? 私には喜んでいるように見えるな」
 つまらなそうに言い捨て、秀人に向き直るはるか。
「彼の前ではいつもこんな感じの顔だったわ」
「え?」
(泣きながら喜ぶって、どういう意味……)
「分からない? こんなふうにしてさ……」
 無表情、能面のような顔のまま大きく足を開き、白い太腿を見せつけながら秀人の膝に腰を下ろす。
 互いの胸元がニ十センチ程度の距離になったところで、秀人はあの日に感じた違和感の答えを見つける。
(やっぱり香水だ……多分あの人と同じ……)
***
「裸婦画」
 膝の上に座られている分だけ目線が高い。
 年頃の女子らしく、まつげもしっかり手入れされている。
 校則違反のはずのアイシャドウ、いつもなら前髪で隠されているが、下から見上げると、それが良くわかる。
「知ってるでしょ? 裸婦画ぐらい……」
「はい……」
 右手は木炭を持ったまま。
「私がモデルになったんだよ? だけど全然進まなかった。
 だって――
***
 彼はいつも優柔不断で、威厳が無い。
 絵について何を聞いても「いいんじゃないかな」とか「君の個性がでている」なんてありきたりの褒め言葉。バカにされているみたい。
 先輩達もいつのまにかアイツを無視し始めたし、それは私も同じこと……。
 ある日忘れ物を取りに戻ったら、アイツみんなの散らかし放題の部室を掃除してた。
 別に手伝ってあげる気も無いし、私はそれをただ眺めていた。
 だけど、「手伝え」の一言も無いアイツに、だんだんいらいらしてきた。
 ――ねぇ、そんなの部員の仕事なのにどうして先生がやるの? ――
 ――僕はみんなに気分よく絵を描いてもらいたい、顧問というよりホストかな――
 ――先生はそんなに格好良くないよ――
 ――そういう意味のホストじゃないよ。みんなのお世話をするって言う意味さ――
 ――ふーん、変な人、馬鹿みたい――
 でも、そんなに格好悪く見えなかった。
 ――そうだね、僕はバカだ――
 掃除を終えた彼は、自分の道具を広げ、何も無い空間に鉛筆を立て、目を細める。
 いったい何のおまじないだろう?
 ――何やってんの? ――
 私の問いかけを無視し、彼は大学ノートの一ページに、エンピツを走らせる。
 ――ばっかみたい――
 私は机に座り、彼を観察する。
 彼はノートと空間を交互に見つめ、そして仕上げる。


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