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コンビニ草紙
【理想の恋愛 恋愛小説】

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コンビニ草紙 第二十弐話-1

第二十弐話 雪ノ下祭―其の四―


家を出るとき、草士さんが草履を出してくれた。
さすがに着物にパンプスを履くわけにはいかないので下駄箱の奥に眠っていたお
祖母さまの物をお借りした。
サナさんのものもあったが私にはちょっと大きかったのでお祖母さま(シノさん)
の草履をお借りした。
シノさんが他界してから長次郎さんも体調を崩しやすくなり、遺品の整理もあま
り出来ず箪笥や下駄箱にしまってある物が多くあるという。
箪笥の中の着物もほとんどシノさんとサナさんの生前の時のままだと言う。


何だかシノさんとサナさんに申し訳ないな…。
と思いながらも仕方がないので草履を借りることにした。

着物を着るのも、草履を履くのもいつぶりだろうか。
大学の卒業式以来になるから
かれこれ5、6年は身に付けていない事になる。
着物は歩幅を大きくとれず、草履にも慣れていないので、
どうしても草士さんの半歩後ろを歩く形になってしまう。


商店街に出ると、さっきまで閉まっていた店の前に屋台を出して、
たくさんの人で賑わっていた。

草士さんは歩くたびに色々なお店の人から声を掛けられている。

「長次郎さんはもう元気なの?」
「草ちゃん、うちの店のカツ持って行くかい?」
「おい、草士、後ろの美人は誰だ?」
「草士さんが女性を連れてるなんて珍しいわねぇ」……


ひっきりなしに話しかけられていて答える暇がない程だ。
草士さんは軽くあいずちを打ってにこにこしている。

「じいちゃんが若いとき商店街をまとめてた時期があったらしいんで、私も何か
と良くしてもらってるんす。」

ちょっとお節介なときもあるんすけど。と髪をかきながら彼は言う。
でもお節介と言う割には草士さんはいつになく嬉しそうだ。


こうゆう地元愛って素敵だなぁと思う。
ずっと上京してから一人暮らしでマンションの近くに商店街もない。
生活のサイクルは仕事→家の繰り返しだし、
たまに飲みに行くと行ってもチェーン店や接待などで行くだけだ。
周りの人に支えられて、わいわい気兼ねなく話しかけたり
話しかけられたりするのって優しい雰囲気がする。
この商店街自体が昭和の良い時代が続いているみたいだ。



「藤本さん!」

感慨に耽っていると神社の入口あたりから手をふってこちらに向かってくる人が
いる。
その人物を見て私も草士さんも驚いた。

「蒔田さん。」
「ヒロタカ。」

ビックリして咄嗟に名前を呼んでしまった。
ヒロタカは初め、私の事が誰だかわからないといった様子で
しばらく見つめていた。
すると突然、目を見開いて一歩のけ反った。


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