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コンビニ草紙
【理想の恋愛 恋愛小説】

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コンビニ草紙 第二十壱話-2

「本当ですね。さっき来た時はすごい降っていたのに…。」

「りょーこさんの服、洗濯してさっき干しておきました。」

「えっ、本当ですか。すみません…なんか。」

「いいんすよ。じいちゃんもリョーコさんに会えて喜んでたみたいすから。」

草士さんはにこっと微笑むとお茶を飲んだ。
今日の草士さんの少し黄みがかった着物を着ている。
袖の下の方と裾部分に向けて、青みがかっている。
その上に水辺に舞う蛍の絵が描かれている。
着物は、季節を先取りするというのを聞いた事がある。
その季節に旬なものにはいくら着物が綺麗でも
天然には敵わないという昔の人の粋な考えからだと
何かで読んだ覚えがある。

草士さんの着物はなんだか涼しげで見ているこっちまで涼しい気分になる。
私が今着せてもらっている着物も、淡くて優しい緑に白い桔梗が映えて
涼しげ、というか凛として素敵なものだ。
草士さんの着物と帯の色が反対のような感じになっていて少し嬉しい。

「あの、この着物、本当にお借りしても良いんですか。」

「へぇ。じいちゃんが良いって言うなら良いんすよ。」

「でも、これって…。お華さんから聞きました。」

一瞬何を言われているかわからないと言ったような顔をした後に、
草士さんはわかった、といった風に大きくうなずいた。

「あぁ。私の母の着物なんでしょう。私が5歳くらいで他界してますから
あんまり記憶がないんすよ。だからそんなに気にしないでください。」

そうは言うものの、目の奥は何だか寂しそうな感じがした。
私の気のせいかもしれないが、やはり嫌な気分になっているんじゃないかと気になる。

「もし、この着物のせいで嫌な気持ちになるなら、
私、やっぱり自分の服に着替えます。」

私はじっと彼の目を見た。
草士さんはびっくりしたように目を開いたあと、ゆっくり目を細めた。

「そんな、嫌な気持ちなんてなってません。
ただ、また大事な人がいなくなってしまうのは嫌だなぁって
さっきふと思っただけです。」


少しの間沈黙が流れた。
大事な人というのはお母さんの事だと思うけど、
またっていうのはどうゆう事だろう。
私がこの着物を着たから色々もしかして思い出させてしまったのだろうか。
どうゆう事なのか聞きたいけど、聞いて良いのかわからない。

何を言おうか迷っていると、草士さんがにこりと微笑み、
一口お茶を飲んで立ち上がった。

「そろそろ私たちも行きましょうか。今日はデートですからね。」

言った後、デートで良いのかなといった風に
草士さんが不思議な表情を浮かべた。
何だかそれが面白くてついつい笑ってしまう。

「はい。よろしくお願いします。」

私もお茶を飲み終えて、彼の前に立つ。

「こちらこそ。」

草士さんはいつも通り猫みたいに笑う。


一階に下りると、遠くでお囃子とお神輿をかつぐ威勢の良い掛け声が聞こえてきた。


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