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昏い森
【ファンタジー 恋愛小説】

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昏い森-9




暁は暗夜と別れると、眠りもせず、そのまま屋探しをした。
あちこちの箪笥や押入れをひっくり返しては、目当てのものを探す。

あの寒い、冬の日に祖母と交わした会話はあれだけではなかった。

黄昏は、暁に教えてくれたのだ。

定めから解き放つことのできる方法―。
森の贄としての運命から逃れられる唯一の。


それは。

伴侶をこの手で殺すこと。


祖母の声を暁はまざまざと思い出す。


いいかい、暁。
―不幸にも。
本当に不幸にも、お前の伴侶となる森の者が迎えにくる前に、お前にもし、別の愛しい者が出来てしまっていたなら。

お前がどうしても伴侶と添えず、愛しい者を想って泣くのなら。


教えよう。
禁忌を―。


古い桐の箪笥が私の部屋にあるのを知っているね。
―そう、あの大きなやつだ。
その箪笥の上から三段目。
いいかい、三段目だよ。
そのずっと奥に、薄い紙に包まれた刀がある。
刀と言っても懐刀程度の長さでね、錫でできている。
柄に紅い紐を結んであるからすぐに分かるはずだ。


その刀で。
刺すのさ―。


でもね、それを成し終えたとき、何が起こるかは分からない。

例え一人殺しても、また次の支配者がお前を求めるかもしれない。

平和な森は無くなり、秩序は乱れるだろう。

お前が乱すんだよ。
禁忌なんだ。
これぐらいは覚悟しなくちゃならない―。


最後の言葉は自分に言い聞かせるように、祖母は思い詰めた顔で呟いたのだ。


箪笥を探る、暁の手に紙の感触が掠めた。
懸命に手を伸ばすと、探し求めていたものが呆気なく見つかった。

見た目の大きさに比べ、ずしりと重いそれには、祖母の言う通り、柄に紅い紐が巻き付けてあり、刃は細く優美だが、何年も眠っていたにも関わらず、鋭い。

祖母もこれを使おうとしたのだろうか。
美しいがいつもどことなく哀しそうな、祖母の姿が思い出される。

汗ばむ手の平の刀はひんやりと冷たい。


それをそっと懐に忍ばせる。



暁は今日、大罪を犯す。


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