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昏い森
【ファンタジー 恋愛小説】

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昏い森-8



次の夜、森羅は暗夜を連れてきた。


暗夜は如何にも面倒臭そうに、暁から少し離れて立っている。

今は人の姿で、森羅に殴られたのか頬に痣を作り、唇が切れて血がついていた。

「あまり俺を煩わすなよ、暁」

大義そうに呟いた。


暁はそれでも、嬉しくて嬉しくて思わず暗夜の元へ駆け寄る。

すると、暗夜は言葉と態度とは裏腹に暁を引き寄せると、自分の胸中に収めてかき抱いた。


暁は暗夜の顔をみたかったが、きつく抱きしめられていたので、それも叶わない。

暗夜は暁の肩に顔を埋めている。吐息が微かに暁のうなじを擽った。


あの香りがする。
甘くて、暗夜を酔わせる濃い花の香のような―。


それは贄が誘う香りなのか、暁自身の匂いなのか、暗夜には分からない。



でも、そんなことどうでもよかった。


暁が愛しかった。


あの黄昏に差し出されたときから暗夜はもう暁のものだったのだ。

だけど。
暁の伴侶に暗夜はなれない―。


暁は何度も暗夜の胸に頬を擦りつけるようにしがみ付く。

暗夜に会えたことが嬉しくて、でもこれ切りで別れなければならないのがどうにも哀しかった。

母もなく、黄昏が去り、暗夜までをも、己の定めが奪おとしている。

自分の血が厭わしい。
定めに翻弄される小さな自分が嫌だ。
何の力もない、ただ妖の贄としてだけ生まれてきた娘―。

このまま諾々と自分の意思とは無関係に、森羅の伴侶となるのだろうか。

―黄昏のように。


温かい互いの身体を離し難くて、それ以上に別れが辛くて二人はいつまでも寄り添っていた。

重なった影を、森羅が貫くように鋭い視線を投げていた。
黄金のように煌く瞳の奥には、暗い炎を宿して。


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