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【イムラヴァ】
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【イムラヴァ:一部】十二章:アラスデア-1

  第十二章  アラスデア



 トルヘアの西、アルバ地方のさらに西にある、ユータルス村を訪れる者は、その村を言い表す言葉――森の中の孤島――に納得せざるを得ない。東からユータルスへ続いている道はたったの一本だけ。しかも、その道は村で終わっていて、何処へも続いていない。逆に言えば、村から先へ向かおうとする者が居ないのだ。そこからさらに西は、果てもなく広がる森があるのみ。それでもあえて入ろうとすれば、森に呑まれるか、運良く森を抜けることが出来ても、その先には何もない。目もくらむような断崖絶壁と、怪物の棲む海と、そこから絶えず吹く強風に雑草すらはぎ取られてしまった、岩だらけの不毛の大地が広がっているだけだという。

 しかし、エレンとトルヘア間の戦争が終わるのを待たずして、方々から――不毛の大地の方角からさえも――次々と人がやってくるようになった。誰も彼も、襤褸をまとい、衰弱しきって、青白い顔をして生気を失っていた。その姿はまるで幽霊のようだった。彼らのうち、かなりの数の者が、獣の顔を持つ異形の者達だ。加えて、幼い子供はほとんどが獣の顔を持っている。彼らのような者達の姿を、エリン本島以外で見るのは希なことだった。それでも、ユータルスの年寄り達は、伝え聞いた彼らの伝説を知っていた。曰く、エレンの島に住む者はクラナドと呼ばれ、彼らの祖先である精霊の魂を受け継いでいる。クラナドたちは、自身の祖霊(トーテム)によって結ばれた一族のまとまりを氏族(クラン)と呼び、氏族ごとに固く結束している。

 クラナドは、全員が獣の姿をして生まれてくる。成長するにつれて人間の姿になるものも、獣の姿のまま大人になるものも居て、後者は特に精霊に愛されているとして祝福される。彼らの祖先である霊たちは、かつてはエレンで神々と共に、老いもせず平和に暮らしていた。しかし、彼らの子孫が増え始めると、神々と一緒に西の果ての不死の国に移り住んだ。そして、今でもそこで、子孫の生活を見守っているのだという。



 トルヘア島で最も西にあった領地が、住民の大部分がエレン人の血を引くユータルスで幸運だった。そうで無ければ、噂はたちどころに広まり、直ちに教会の軍隊が押し寄せ、呪われた島からの亡命者達を殲滅していただろう。失った故郷に対して抱く気持ちがあったからか、村人は一様に口を閉ざし、同胞の存在を受け入れた。そしてその事は決して村の外に漏らしはしなかった。運良く人間の姿をしていた者は、小作人や職人の下働きとして村に住むことも出来た。領主は、彼らがトルヘアの憲兵に捕らえられる前に素早く改宗させ、トルヘアに忠誠を誓わせた。故郷を失ってまで、しがみつこうとした命だ。胸に手を当てて忠誠心を捧げる相手が、エレンの王からトルヘアの王に変わったところで何の違いがあろう?しかし、子供や、獣の姿をしたシー達には、森のほかに生きてゆく場所は無かった。

 やがて彼らの故郷は、生と死を司る守り神ヘレンの名から「ヘルの島」と呼ばれ、彼ら自身はその異形から悪魔と呼ばれるようになる。


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