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『Scars 上』
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『Scars 上』-18

なぜだろう。私は動じていないのに。
身体の震えが止まらない。いつものことなのに。いくら耳を塞いでも。
背中がジンジンと疼く。熱い。
父の怒鳴り声は止まない。まるで頭の中から直接響いているかのように。
身体の震えは止まらない。どんなに抑え込もうとしても。
父と母が喧嘩をしているのなんて、別に珍しいことじゃない。
何日も何年も。
私が物心つく前からの日常。
それなのに、私は未だに震え続ける。
弱い自分。そんな自分が嫌だった。
弱くて、醜くて。
下で毎日飽きもせずに怒鳴りあっている両親はもっと醜い。
歪んでいる。醜くて、歪んでいて、最悪な世界。
「――ッ!」
更にエスカレートしていく罵りあい。
男の怒鳴り声。
女の悲鳴。
「消えて、なくなってよ!」
私は耳が壊れてしまうほど強く塞いだ。
かたかたと情けなくも震え続ける体を抱きしめながら。
今日も、背中の古傷が発する、鈍い熱を持て余すのだ。





シバ狩りが始まった。
空気の張り詰めた深夜。
閉店後のパチンコ屋の駐車場。
車が一台も止まっていない広大な空間に、不良達の叫び声が響く。
「死ねや、コラァ!」
「調子こいてんじゃねえぞ!」
汚い野次。
それらはたった一人に向けられている。
圧倒的な状況だった。
肩で息をつく一人の大男を数十人の不良が囲んでいる。
いわゆるリンチ。
絶望的なまでの戦力差の中、しかし、シバは孤軍奮闘していた。
何度殴られ、蹴られても。
不死身であるかのように地面に屈せず、不良達をなぎ倒していく。
「やるな、アイツ」
隣でレイが感嘆の声を上げた。
レイがそんなことを言うのは珍しい。
「よくがんばるよな」
俺はそう言ってほくそ笑む。
誰にも邪魔されることのない場所。
処刑場と化した駐車場。
夜の暗闇に包まれた駐車場の真ん中で、シバが雄たけびを上げて部下を殴り飛ばしていく。
俺たちは、そんなシバの奮闘を少し離れた場所で眺めていた。
五十人もいた部下はもう半分くらいしか立っていない。
化け物だな。
「つうか、今日は白嶺のお嬢様に会いに行くんじゃなかったのかよ」
喧嘩にはあまり興味のないユウジが口を挟む。
「それなのに、なんで野郎を引き連れてあんなむさい男ボコってんだよ」
白嶺のお嬢様か。
「ふふ」
その言葉に、思わず笑ってしまう。
「これから会いに行くんだよ。いや会いに来るのか」
思わせぶりな俺のセリフに、ユウジはうんざりとした表情を見せる。
「これからって……、もうそろそろ日付変わるぜ?」
時計を見れば、そろそろ午前零時を回ろうとしていた。
ため息をつくユウジを尻目に、俺はアスカのことを考える。
あの女は、シバを助けにくるのだろうか。
来ないなら、来ないで別個撃破すればいいだけの話なんだが。
心のどこかに、シバを助けに来るアスカを待ち望んでいる自分がいる。
……なんだろうな。
「それにしても、よくあの化け物を誘い込めたな」
俺が何かを意図していることに気づいたレイが話題を反らそうとする。


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