投稿小説が全て無料で読める書けるPiPi's World

短編集
【その他 その他小説】

短編集の最初へ 短編集 0 短編集 2 短編集の最後へ

短編集-1

「道連れ」

今まさに女は死のうとしているところでした。女の纏う空気、雰囲気、それは正しく死の匂いでした。その匂いは女の伏せる布団に移り、横に置いてある花瓶の白百合に移り、最後には僕のところまで及んでいました。
ああ、この女と僕は一緒に死ぬのか。そう悟った時には、もう既に何もかもが手遅れでした。いいえ、全てはとっくの昔に、もしかしたら女が産まれた瞬間から手遅れだったのかもしれません。
鬼子、忌み子。それが女の産まれた時からの呼び名でした。
「ねえ、私、死ぬのよ」
そう言って女は唇を弱々しく、しかしくっきりと吊り上げて、僕に笑って見せました。
「そうですね」と僕は何も表情を作らずに言いました。
女は気付いていないのです。自らの無意識の内に、僕まで殺そうとしている事に。
「私が死んで悲しむ人って、どれ位居るのかしらね」
女は虚空を見つめ、尚も笑いながら言いました。少なくとも僕が死ぬ時よりは多いでしょう、と思いながら僕は言いました。
「きっと沢山居ますよ」
女はキッと僕を睨みつけました。女は人の嘘が分かるのです。まるで生物が呼吸をする程、自然に。もちろん、嘘が読まれる事を知っていた僕は、その視線にたじろぐ事はありませんでした。
表情を作らない僕に、女は馬鹿馬鹿しくなったのか、一つ溜め息をついて、再び虚空を見つめました。虚ろでした。虚ろの奥に、はっきりとした死が映っていました。
障子の奥に、雪の気配がありました。それは死の瞬間位は美しく、という天の皮肉なのでしょうか。
女は目を閉じました。僕も目を閉じました。この部屋の全てに死が宿っていきます。女が最初で、次が僕でした。後に花びらと、冷たい虚空がはりつめているばかりでした。


短編集の最初へ 短編集 0 短編集 2 短編集の最後へ

名前変換フォーム

変換前の名前変換後の名前