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短編集
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短編集-2

「祈り」 

気付けば、言えなかった言葉を、聞きたかった言葉を虚空に探していた。
時計は午前二時を指していた。持ち帰った仕事を片付け、シャワーを浴びた。そして簡単な夕食を済ませた後、僕は煙草に火を点けた。
煙草から立ち昇る紫煙と、僕の吐き出した煙が同時に宙を舞い、そして消えていった。
それが何故なのか分からない。ただ、僕は思った。ああ、まるで僕達の言葉のようじゃないか、と。
生まれては消え、消えては生まれ、その繰り返しの中で、幾ばくかすり減り、変わった僕。
いつからだろう。言いたい事を自分の中に押し込めるようになったのは。
いつからだろう。聞きたかった言葉でさえ自分の中に留められなくなったのは。
分からなかった。ただ漠然として輪郭の無い虚しさが僕の周りを包んでいた。
あの時、誰かに聞いて欲しい言葉が沢山あった。あの時、誰かから聞きたかった言葉が沢山あった。でも、その殆どは現実と成らずに僕の胸の中に積もっていった。
紫煙が部屋を漂っていた。同じ位の量の虚しさが、ぼくの胸の中にも漂っていた。
もう眠ってしまおう。そう思い、僕は煙草を揉み消してベッドに潜り込んだ。
明日だったはずの今日がまたやって来る。
でもその繰り返しの中に、この虚しさを晴らしてくれる何かがあるかもしれないから。胸に積もった言葉達を掬い取ってくれる誰かと出会えるかもしれないから。
そんな淡くて頼りない期待を、胸の中の一部に寄せ集めて、ぼくはまた今日を生きようと、そう思う事が出来る。
午前三時、僕の世界が再び動き出す前のほんの僅かな時間と、漂う煙草の残り香が、静かに僕を守ってくれているような気がした。


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