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いけないあそび
【同性愛♂ 官能小説】

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いけないあそび-5

三、唇の感触

幸いなことに、体育倉庫が空いていた。
灰田はマットの上に寝転び、口許を歪めて舌打ちをする。
(くそ、シクヤの奴……!)
俺に構って何の得がある?
からかっているだけなのだろうが、どうも嫌な予感がする。

その時だった。
がらりと倉庫の扉が開く。そこには満面の笑みを浮かべた彼が立っていた。
「見ーつけた」
対照的に思い切り顔を顰め、灰田は志久野に聞こえるように舌打ちをした。
「……どうして此処が分かった」
「この前と今日のことがあるから、図書館にも書庫にもいないだろうって踏んだまでだよ。ま、此処に来るまでに、理科室とか美術室も見て回ったんだけどさ」
再び灰田の舌打ち。
そんなことは意にも介さず、志久野は後ろ手で扉を閉めてから言った。
「で、お前は俺につきまとってほしくないの? それともつきまとってほしいの?」
「つきまとってほしくない」
返す言葉は短い。
「決まってるだろ」
吐き捨てるように言い、志久野を突き飛ばすようにして倉庫の外へ出て行こうとする。
しかし志久野は扉に手をかけた灰田の腕を掴んだ。
「俺はさ、ヒデ」
身長も体格も同じくらいだが、その力は灰田が思ったよりも強い。
「お前とヤッてみたいんだよ」
「一回でいいよ。そうしたら、お前につきまとうの止めてやる」
何となく、予想はしていた。
だが、あまりにも直接的なその言い方に灰田はかっとなる。
「ヤッてみたいって、何だよ。俺は変態じゃない。そんな簡単に、分かったなんて言うわけないだろ」
「じゃあ、これからもつきまとってほしい?」
「俺はお前とヤるのもごめんだし、つきまとわれるのもごめんだ」
灰田は苛立ちを隠せずにいた。
「マダの野郎に言いつけるぞ」

間田(マダ)、というのは彼等ロ組の担任であった。
脅しめいた灰田の言葉にも、志久野は相変わらずその口の端に余裕の笑みを浮かべている。
「いいよ? マダでも、生徒指導のモウイにでも、言いつけてみれば?」
間田は赴任してきたばかりの新任教師だが、望井(モウイ)は十年も前から駆保高校の生徒指導をしている。厳つい面に違わず厳しい指導で父兄の間でも有名であった。その望井に目を付けられることは、駆保の生徒達にとって最も恐れられていることのひとつだ。
「ただ、何てチクる? 俺に襲われそうになったって?」
「分かってると思うけどさ、こういうことを間田達だけに言ったって、あっという間に生徒達の間にも広まるもんだぜ。いいのかな? もしかしたら話に尾ヒレがついて、ヒデがカマ掘られたなんて噂が広がるかもよ」
灰田は苦い顔をした。
確かに、教師には何と告げればよいのだろう。
それに志久野の言葉は憶測にすぎないが、あながち間違っていないともいえない。秘密なんてものは本人の胸の内に秘めておかない限りいたずらに流布されてしまうものだ。それに、噂好きな生徒は決まって他にそれを告げる時には話を大きくする。
正直、志久野と噂になるのはそれこそごめんだった。
「俺に泣き寝入りしろっていうのか」
「そういうことだね」
しれっとして言う。それから志久野は、灰田の耳に口許を寄せて囁くように言った。
「一回きりでいいんだぜ? な、その方が楽だろ?」
「……でも」
躊躇うように俯き、それから顔を上げた灰田は不意に志久野に腕を引かれ、彼の胸に傾れ込んだ。
バランスを崩したものの何とか地面に膝をつくのを踏み止まる灰田。志久野に対し、抗議の言葉を叩き付けようとするも、彼は志久野によって積み上げられたマットの壁に押し付けられた。


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