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旅立ち
【青春 恋愛小説】

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旅立ち-8

「絵里!」

「いやあ。行かないで!」

絵里の姿を見つけ立ち上がろうとする僕に、渚が必死でしがみつく。僕は、それを振り払おうともがいたが、その腕に力はなかった。

絵里の動揺は計り知れないものがある。僕は絵里を追いかけたかったが、絵里を追いかければ絵里以上に渚を傷つけることにすぐに気がついた。今の今まで心を通じ合っていた僕にとって、渚の気持ちは痛いほど分かっていた。

あまりの出来事に渚がすすり泣いている。

僕は、なんてことをしてしまったんだ。
気づくのが遅すぎた。いや違う。本当は分かっていたんだ。
僕は、目を背けていただけだ。
そのせいで・・・・・ 二人の女性を・・・・・
傷つけてしまった。

絵里は僕のことを恨むだろう。いや、それだけなら構わない。男性に対する深い不信感持つに違いない。取り返しがつかないことを・・・・・

僕は、男性を好きにならないと抵抗する絵里に友達のふりをして近づき、絵里の心を自分の方に向かせておいて、最悪の形で裏切ったのだ。

渚を傷つけたこともそうだった。昨日までの関係なら、渚をこんなに傷つけることはなかったのかもしれない。しかし、それも言い訳だった。渚が僕のことを好きでいることは分かっていた。僕は、特定の相手を作らないとうそぶき、優しい渚につけ込んでいたのだ。

気づくのが遅すぎた。いや違う。本当は分かっていたんだ。
僕は、目を背けていただけだ。
そのせいで・・・・ 二人の女性を・・・・・
傷つけてしまった。

苦しい・・・・

愛情と向き合うことをしなかった僕は、愛する人をこれ以上ないやり方で傷つけたのだ。

僕は絵里を追いかけ、どうしようとしたんだ。
渚をおいて、どこへ行こうとしたんだ。



勇斗のマンションを飛び出した絵里は、大通りへ出たところで立ち止まった。息が苦しい。それにしてもビックリした。大変なものを見てしまった。少し腹立たしい気もするけど、それ以上に驚きが勝っていた。

本当に、こんな事があるのね。なんかドラマみたい。でも、これで良かったのかも。

絵里は、勇斗とキスしてしまったことを後悔していた。勇斗の部屋に、落としたピアスを取りに行くのも、勇斗に誤解をさせるのではと抵抗があったのだ。

絵里は歩きながら考えていた。勇斗の人間性が、早く分かって良かった。少し腹立たしい気もするけど、元々つき合うつもりもなかったし、もう忘れてしまおう。それよりも、圭介のことといい、勇斗とのことといい、雰囲気に呑まれやすい自分の性格をなんとかしないといけないわね。やっぱり結婚を前提とせずに男の人と会うのは無理があるかも。
それが分かっただけでも良かったわ。それにしても思いっきり走ったのなんて何年ぶりかしら。なんか気持ち良かったな。そういえばお腹が減ったわ。美味しいものでも食べたいな。絵里の血液型はB型だった。


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