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青かった日々
【青春 恋愛小説】

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青かった日々〜兆し〜-8

「今から、貴様を断罪する」


大の口から出たのは呪阻。

悟史はようやく理解するが、時は既に遅く。

梓と夏美はいきなりの物音に部屋へと顔を向けた。

そこにはプロレス中継よろしく、狭い部屋で所狭しと暴れる三人。

梓は、階下に住む母子を思って注意しようとしたが、それよりも早く、夏美が三人に向かう。

おもむろに握り拳を振り上げると、


「埃が立つでしょ!」


怒声と共に、容赦無く三人の頭上へと振り下ろした。





「いやあ、鍋美味かったな」


梓に見送られ(悟史は見送らなかった)アパートからの商店街へと続く坂道を下りながら、直人は言葉を発した。

梓と夏美の作った鍋はオーソドックスなキムチ鍋だったが、十二分に美味かった。梓は夏美の手際を褒め、夏美は梓の手際を互いに褒めあった。

野郎共が心配していた味付けも、年月という力と梓のサポートもあり、十二分の出来となった。

食器を洗った後に行った大富豪勝負では、直人が二十戦中大貧民十八回という奇跡を見せ、久しぶりに盛り上がったトランプ勝負となった。

大は特に何も言わなかったが、笑顔なのを見るとほぼ同意見なのだろう。だが、夏美だけは暗い表情のままだ。


「どうしたよ」


何かを感じたのか、直人は夏美に問いかけたが、返ってきたのは沈黙である。

そのまま坂を下り、そう長くもない商店街を三人は無言で抜ける。


「なんだかね」


意外にも、というよりは当然だったかもしれない。沈黙を破ったのは夏美だった。


「今まで四人だったじゃん」


二人は何も言わずに歩き続ける。少し夏美の歩調が緩んだが、その分だけ二人も歩幅を狭めた。


「なんかね、久しぶりに四人一緒になった感じがしてさ」


夏美の言葉が中学までのことを指していると、聞き返さずもわかった。

中学までは、ほぼ毎日夕陽が沈むまで外で遊び回り、中学もそれぞれ部活には入ったものの、今よりも一緒にいる時間は確実に長かった。


「そうだね、確かに」


大は相槌を打ちながら、夏美の横顔を見る。溜め息をついた彼女の横顔は、寂しいというよりは苛ついてるような横顔だった。


直人は終始口を出しはしなかったが、夏美の言いたい事は十二分にわかっているだろう。


湿っぽくなった雰囲気を感じたのか、夏美は二人を見やって「ごめん」と軽く謝ると、先に帰っていった。


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