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青かった日々
【青春 恋愛小説】

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青かった日々〜兆し〜-7

「そういえばさ」


大が急に小声で二人に問いかける。


「夏美ちゃんに料理任せていいの?」


悟史と直人はたっぷり四秒は沈黙した後に、「確かに」と返す。

今になって、三人は夏美の料理の腕を思い出した。

夏美は料理を作るのは好きだが、壊滅的に料理が下手だった。

玉子焼きを作ると、黒く変色したパリッパリの「スクランブルエッグだった、黒いなにか」が出来上がり、クリームシチューを作ると野菜が生煮えで、やたらとサラサラした「もう少しでシチューになれるかもしれない、シチューっぽいもの」が出来上がる。

彼らは、そこまでは千里を譲って許していた。まだ、味の想像が出来るからだ。

しかし、夏美の「壊滅的」の部分は味付けにあった。

その味は元々の素材の味を百二十パーセント殺し、そこに彼女独特の味付けが、ニ百パーセント加わる。

その調理術は、さながら錬金術であり、悟史達はどうにかして夏美の料理を回避し続けてきた。


「まあ、大丈夫だろ。遠藤料理上手いし」


過去のトラウマが蘇ったのか、戦々恐々とする二人に励ましの言葉を掛けた。

だが二人から返ってきたのは、言葉ではなく半眼。何か悪いことを言ったかと、悟史は首を傾げる。


「遠藤さんの料理を食べたことあるんだ」


大の質問に、悟史は数秒うなってから「まあ、何回か」と答えた。

事実、山乃辺荘の住人達で集まって食事をする時は、もっぱら女性達が調理を行う。無論、梓も入っている。

別段二人だけで食事をしたことは無いが、周りからの評価も良く、少なくとも下手ではないだろう。というのが悟史の評価だ。

しかし、あくまでも善意で出した助け舟に二人は乗らなかった。


「一人暮らしに女の子の料理か……」


直人の深々とした息を合図に、大はテーブルの上に置いてあったコップを、キッチンへと持っていく。

直後に、直人はテーブルの足を畳み、部屋の脇へどけた。

大が部屋へと戻る。悟史は何も言わずに成り行きを見ていたが、二人は立ち上がったまま悟史を見下ろしている。


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