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【FRY】
【コメディ 恋愛小説】

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【FRY】-1

暑い・・・。ヤバイくらい暑い。日の当たる場所に放置されたアイスクリームみたいに溶けちまいそうだぜ。
俺は、薄い長袖のシャツの袖で流れる汗をスっと拭うと両肩に背負っていた大きなリュックサックを焼ける様に熱いコンクリートの地面の上に置いた。
ああ、自己紹介がまだだったな。俺の名前は田野咲(でんのさき)
年齢は19歳の若者だ。職業はカッコ良く言えば、日本中を旅する旅人。しかし正直に言えば紙芝居をしながらなんとかその場をしのぎ、日本中を旅するフリーター。
この町・・否、村にも訳もなくやってきた。俺はリュックサックの中から商売道具である紙芝居セットを取り出すと、実に手際よく組み立てた。
「わぁ〜、紙芝居だ〜」
すると実にタイミング良く5〜6歳位の男の子と女の子が俺の周りに群がって来ていた。
「ちょうどいい所に来たな。俺の紙芝居を見ていけ」
俺は満面の笑顔でそう言うと、早速紙芝居を始めだした。俺の十八番である一寸法師を真剣に聞きいる子供達は実に楽しそうだ。
「・・と言うことで一寸法師は幸せになりましたとさ。めでたしめでたし・・・。さぁガキ共、金を払え!お兄ちゃんは腹が減ってんだ!ラーメン定食大盛りがくいたいんだ!さぁ、金を払え!」
俺は右手をズイっと子供達に差し出し怪しい笑顔で近付いていく。
「うわーん!来るなー!」
そう言うと同時に丸坊主の少年が俺のすねを思いきり蹴りあげやがった。まるで決勝ゴールがかかったフリーキックの時のサッカー選手のような見事なローキックだ。
「いってぇぇーっっ!」
もちろん俺はすねを両手で押さえながら飛び上がった。目から星が飛び出しそうとはよく言ったもんだ。子供達は俺を置いて猛ダッシュで走り去っていってしまった様だ。
「なんつぅガキだ。」
一人ポツンと残された俺に残ったのは古ぼけた紙芝居セットと負けセリフにすねの痛み、そして満たされぬ空腹だけだった。ふと目をやるとセーラー服を着た少女が俺を見て笑っている。恐らく高校生くらいだろう、肩まである少し茶色を帯たサラサラとした美しい髪と可愛らしい仕草。誰がどう見ても可愛いと言うだろう。
俺はコホンとわざとらしく咳をすると少女に向かって口を開いた。
「お前、紙芝居見てたのか?」
「あっ、うん。とっても楽しかったよ」
少女はなんとも言えない様な悪意一つない笑顔で俺にそう言った。その笑顔を見た俺は、空腹のことなどもうどうでもよくなった・・りはしねぇよっ!
「じゃあ分かってるよな?」
「うん。ラーメン定食大盛りだよね?」
「ああそうだ!って良いのか?ホントに?」
「いいよ。私の家、定食屋さんだから」
神は俺を見捨てたりしなかった。少女は相変わらず屈託のない笑顔で俺を見つめている。俺は素早く紙芝居セットをリュックサックにしまうと、重量50キロはゆうに越えているリュックを両肩に背負った。
その瞬間、少女の日に焼けていない白い右手が俺の左手をソッと掴んだ。「私、小玉彩音(こだまあやね)よろしくね!お兄さんは?」
彩音はそのまま俺の手を引っ張りながら走り出した。この瞬間、リュックが50キロってのはどう考えてもおかしいなと思うわけだ。俺の空腹が成せる技か?多分5キロくらいだな。それとも俺の体重が5キロか?もう訳わからん。とりあえず名前を名乗ることにする。
「俺は咲、田野咲だ」
「咲・・さん。いい名前だね」
彩音に引っ張られながら見える景色が少しづつ変わっていく。都会にはない綺麗な小川、牧場と見間違うかの様な広い田畑、そして車一つ通らない道路。うん!見事なド田舎だ!ラーメン食ったらとっとと違う町に行こう。心の中で35回くらいそう思った。
走り出してから3分程で彩音の家についた。しかしどこからどう見てもその家は定食屋ではなく、田舎の名にふさわしい木造建築一階立ての見事なハウスだ。
もちろん定食屋らしき看板も立っていない。
しかも、家の前には誰が乗るのか分からないが大型の赤いバイクが置いてある。まさか通常の三倍のスピード・・って考えすぎか?
まぁ、あれだよな。外見は定食屋じゃないと見せかけといて中に入ると定食屋なんだよな?
彩音はそんな俺の心配をよそに俺の手を引き、普通のどこにでもあるような畳がひいてあり、ちゃぶ台が一つと言う和を感じさせる空間に俺を招待してくれた。
つまり居間だ。居間の周りの障子は全て開放されており、ときおり入る涼しげな風が風鈴をチリンチリンと鳴らし、とても風流だ。
俺はちゃぶ台の前にチョコンと正座し、冷静に彩音に訪ねた。
「どこが定食屋だ?普通の居間じゃないか。どうしてくれる!俺がどれだけ期待していたかわかるかっ?」
「だーいじょうぶぃ!私がラーメン定食大盛り作るから」
彩音は俺に向かってピースし、ニカっと笑うと台所に歩いて行った。
居間に残された俺は一つ溜め息をつき、リュックの中からカプセルの錠剤を一つ取りだすと口に含み、彩音が出してくれた冷水で一気に胃に流し込んだ。


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