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『Summer Night's Dream』
【青春 恋愛小説】

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『Summer Night's Dream』その4-4

「花言葉は……私を、忘れないで……」


「え?」


陽介を見て、さくらがそう言った。
何故だろう……?
何だかその言葉が、自分に向けられたような気がした。
電気ショックにも似た、頭に何かが流れ込んでくるような、意識がどこかに飛んでいってしまうような感覚。
自分ではない誰かの、見たこともないはずの物が、見える。
狭い、部屋。
真っ白で、だけど真っ暗で、空虚な部屋。
何もない、部屋。


その中心で、声が聞こえる。
いや、正しくはそれは自分の内から発せられているものだ。
声が聞こえる。
心の中で、何かが叫んでいる。


――私を、忘れないで……


…君は、誰?
どうしてそこから、懸命に叫んでいるの?

そんなにも、強く、強く、悲しいくらい。




世の中には、理解できないことが確かにある。
例えば急に胸騒ぎがして家に戻ると火事になっていたという話。
例えば立て続けに不幸が起こった人がいて、それは先祖の霊の仕業と言われた話。
例えば見たこともない風景に、なぜか既視感を覚えていたという不思議な話。
本で読んだり、テレビを見たりして覚えた知識。
半分バカにしたような気持ちで捉えていたけれど、それらは確かに起こり得るのだ。
世の中にある全ての謎を信じているわけではない。
だけど日常の中にある、ほんの小さなおとぎ話なら、今の陽介にも信じることができた。

それらを踏まえた上で、陽介は考える。


――アレはいったい、何だったのだろうか……?


同じ夢を見続けるさくら。
写真が示したわすれな草。
そして、陽介が聞いた声の正体。


この一連の現象が無関係でないとするならば、一つの結論が導き出せる。
何者かが、さくらを通じて何かを伝えようとしているのだ。
その何かが陽介には分からない。


「どうした?風呂沸いたぞ」


ベッドに寝ころんで天井を見つめていた陽介に、じいちゃんが怪訝そうな眼差しを向けてきた。


「ああ、僕は後でいいよ……」


陽介が言って、手を振るとじいちゃんがそうか、と言って部屋に入ってきた。


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