……タイッ！？ 最終話「告白しタイッ！？」-27
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「紀夫ってさ、エッチしたことあるんだね」
「え？ あ、……うん。そりゃあるよ」
ぼそりとつぶやく隣の子の言葉に、すでに見切られていると認める。
「理恵と？ それとも綾と？」
「里美さん……」
「美奈子先輩、キャプテンまで……」
他にもう一人いるのだが、それはさておいて。
「なんで、そんなこと？ 知ってるのさ」
「聞いちゃった。立ち聞き」
「そう」
今度は紀夫がうつむく番。
その心境は複雑そのもの。
知られてしまった恥ずかしさが頬からおでこ、耳に灼熱を点し、絶望的な青写真が色あせるどころか青かびに侵食されていく。
「別にいいじゃん。浮気してるんじゃないし」
「ああ……」
「けど、私とキスする前にエッチするなんて最低」
あのキスだけは別のもの。
気持ちをこめた、大切な、能動的なキスだったはず。
「ごめん」
胸を貫くのは悔恨の気持ち。言葉はむなしく、祭囃子に消えるだけ。
「いいよ、約束してないし、それにただのキスだもん。君にとってみればさ」
「そんなこと、大切な、重要な思い出だよ」
それだけは譲れない。そこを間違えれば、どの行為も物理的な運動と、生殖器官の反射に過ぎなくなる。
「私にはね。だってファーストキスだもん。それとも君も？」
「俺は、違うけど、でも、大切だって思うさ」
「みんなとのエッチより？」
「ああ」
「そういうの、最低だよ」
気持ちを重ねたのだから当然だろうという紀夫に対し、里美は目を伏せてポツリとつぶやく。
「だって理恵も綾も美奈子先輩もキャプテンも、みんな君とのエッチ、大切にとっておいてたもん」
「それは……」
声が弱くなると握る手にも力が入らなくなる。けれど半比例して里美の握力が強くなり、彼を放そうとしない。
「私、それ知らなかったら多分君と付き合ってた」
心が温かくなり、そして急激に冷めるのを感じる。
「それにほら、用意してたんだ」
浴衣の帯につけた巾着には見慣れたパックの商品がいくつか。
「ばっかみたい。君はやりチンだもの。私がもってなくても君が持ってるよね？
じゃないといざっていうとき、女の子と遊べないもの」
「そんな……こと」
事実、ジーパンの裏のポケットには以前保健室でもらったお守りが三つ。二つはすでに開封済みだが、もう一つは大切にとっておいていたのだろうか？ それともただの惰性だろうか。
「ね、境内まで行こうよ。静かに話せるところがいいし」
石段を登る足並みも重苦しくなる。
まるで死刑台にあがる囚人のごとく。
すでに死刑宣告も出ているのだ、あとは結末に怯え、自らの行いを悔いる以外に無い。
そして、手に入らないこれからの未来の一部を、今、そのときまで噛み締めようと、彼女の手を強く握る紀夫であった。