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初恋はインパクトとともに
【青春 恋愛小説】

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初恋はインパクトとともに ♯4/ステップアップハートビィト-5

彼はうるうると瞳を潤ませて私を見つめている……
「……誰?」
いつもの丁髷頭ではなかったので一瞬誰だか分からなかったのだが…
「ほらぁ〜やっぱり知り合いなんて嘘〜」「さてはあんたストーカーね!」「キャー警備員さぁん!」「姫様の貞操がぁ〜!」
ズカズカと言葉攻めにあう彼は半ば諦めたようでうなだれている……
分かっていたさ気付いていたさ“彼”だって…ただ彼の様子が滑稽で可愛くって…少し眺めていたくなったんだ。
(私のことを晶と呼ぶ男は父様と兄様と、アカネだけだしな)

「その辺にしてやってはくれないか?彼はその…知り合いなんだ。」
「えっ?」「姫に男の知り合い?」「ありえないっしょ?」「ありえないありえなぁい!」「何かのジョーダン?」「うん、こんな格好だけど実は女の子なんだよ!顔もほら…女の子に見えなくも〜ないかなぁ〜」
(いや、そんなに現実逃避しなくても…)
何か少し怖くなった…
「はいはい、この子は姫の親戚の子でね、一族を代表してわざわざ応援に来てくれたのよ。」
八雲が良いフォローを入れてくれた…持つべきものはなんとやらだな。
「え?親戚?」「なぁんだぁ…」「そういえば姫系な顔かも…」「わ、私なんか最初っから気品溢れる顔立ちだなって思ってたわよ!」「私なんて初めて会ったその瞬間に腰抜けにされたわよ!」「私なんて一目見た瞬間に脳髄電撃ものよ!」「わたしなんて〜!」
(今度は何だ?)
何かいつの間にやら話はワケの分からん討論に…
「晶、いまのうちよ。」
「いまのうちって何がだ?」
「開会式…もうすぐなんだけど?」
八雲は視線でクイクイと時計を見るように促した。確かにもう15分前だ…
「分かった。ここは頼む。」
「えぇ、いつもの事だしね。」
(正直、こいつには頭が上がらないんだ)
私はなるべく気づかれないように悟られないように、その場を離れようとした…が、取り巻きたちは何かもう色々そっちのけで討論?を続けていた。
「あきら〜忘れ物〜。いや、者〜!」
「んっ?」
振り向くとすっかり覇気を失った、かつては朝比奈茜と呼ばれていたモノが私の胸に飛び込んできた…
(そこ、そんな物を胸と呼ぶのか?とか思わないように。胸は胸だろう?)
「ぁきゃ!」「んぎゅ!」


「まさかこんな場所でアカネと会うとはな。」
結局、開会式には参加しなかった…
各校の代表者が集って話を聞く…程度のものだし、うなだれている彼を見てると、何か放っておけないなって思ったんだ。
「うん、剣道部のツレに教えてもらってさ。今日はちょうど暇だったから弁当の差し入れも兼ねましてね。」
(私はただの暇つぶしの道具か…)
まぁ、照れくさそうに笑う彼の横顔は何か…その…愛らしくって(ほら、猫とか犬とか見てるとウゥ〜ってなるときあるだろ?あんな感じだよ!ホントだぞ?)いやいや、そんな事より…
「弁当?また作ってくれたのか?」
「うむ、今日は何と炊き込みご飯(特盛り)に鶏の唐揚げに焼き魚、さらに朝比奈家直伝筑前煮だ。オレ頑張っちゃいました!」
彼はうなだれながらも(実は先ほど私の防具で鼻を打って鼻血が出ているためだが)Vサインを作っていた。
「もしや…いや、まさかとは思うが…私のために…?」
「そうともゆう。」とはにかみながら(?)アカネは答えた。
(うぅ…また何か胸のあたりがこうグッと…ちくっと)
おそらく…今現在、私の顔はだらけているだろうな…。
アカネが料理好きだと聞いたときには、男が料理なんて…とか思ったが、今さらそんなことはどうでもよい…というか言えまい。
アカネが私のために何かをしてくれた…。私のためにだ…何か、その事実が凄く嬉しくって。胸が熱くなって。
「良かったらなんだけどさ…自分の分も作ってきたから、その…一緒に…食わないか?」
目線を泳がせ(実は鼻血を押さえているために目線が合わせられないだけだが)、頬を指でポリポリかきながらアカネは訪ねてきた…。
(頼むから、その顔はやめてくれ。何かまた…。)
うむぅ…私もなぜかアカネの顔を直視できないんだが。
何だか目線の置き場に困り果て、目線を泳がせていると、扉の陰に見知った人影が…八雲だ。
なんだか口を必死にパクパクさせている。
(アカネはどうやら鼻血を止めることに専念しているようで気付いてないみたいだが)
「な、何だ?」
視線が合うと八雲はさらに必死になって……
(なに?ちやんすだ、ちやんすだ、あたつく、あたつく???)何事だ?訳分からん。
とりあえず捨て置くことにした。それよりも、そんなことよりも、いまはアカネだろ?
アカネはアカネで何だかアガアガ言っている。
「く…首つった!顎もあがあが…。」
どうやら無理な体勢を続けたために首が悲鳴をあげたらしい…。
(ったく、しょうがない奴だなぁ)
私はアカネの頭を支えてやると、自分の足…太股にそっと寝かせてやった。
「あああアキラ?!」
素っ頓狂な声を出し、微々たる抵抗を見せるアカネだが、これは私も譲れない。
「良い。楽にしてさっさと血を止めろ」
膝枕と言うんだろう?後から八雲に(大胆なことしたわね〜)って言われたんだが…そんなに大したことなのか?
彼の顔がなぜか赤い…
「熱でもあるのか?」
私は訪ねながら、彼の額や頬に触れてみた。
熱はないな…しかし、きめ細やかな触り心地の良い肌をしている…髪も少しクセがあるものの何というか艶やかだ…思わず無意識のうちに撫で回してしまっていた。
「あ、アキラ…なんていうか…その…」
何だかいつの間にか夢中になっていたらしい。


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