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天使のすむ場所〜小さな恋が、今〜
【理想の恋愛 恋愛小説】

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天使のすむ場所〜最後のドライブ〜-1

 「ごめんな、でも…いままでありがとう。そろそろ行くから。」



直人は苦しそうに、やっとそれだけ伝えると目を閉じた。私も子供達も直人の周りを囲んで、手を握って



 「ばか、何言ってるのよパパ。」

 

少し、苦笑いで答える。でも、もう時間は残っていなかった。いってしまう。直感だった。



「パパ?」「ぱ〜ぱ。」



子供達が、直人の手を握ったまま呼びかける。不規則なモニターの音だけが、彼が生きていることを知らせてくれる。でも…



「直人?ねぇ、寝ちゃったの?」



私が直人の身体を軽く揺さぶる。でも、彼は目を覚まさない。マスクから酸素が漏れる音がうるさくて、看護師さんが部屋に入ってきたことにも気づかなかった。看護師さんが、直人の脈をはかりながらモニターを見る。自動で血圧計が動く。今まで規則的にモニターに表示されていた、直人の心臓の波形は不規則に波打つ。沈黙が長いような気がして、子供達を抱きしめたまま私は、一番聞きたくないことを看護師さんにぶつけた。



「もう、そろそろでしょうか…。」



看護師さんは、直人から離れ私の顔をしっかりと見る。落ち着いているような、けれど急がなければならないような…そんな表情で、



「はい。今、主治医に連絡してきます。」



心臓が、一気に早鐘を打つ。覚悟はしていた。この日がくることを、何日も前から覚悟していたのに。私は、ぎゅっと一度目をつぶる。怖がるな、美香。直人はまだ、生きてる。言い終えた看護師さんが、早足で病室を出ようとした時、思い出したかの様に振り返った。そして、ゆっくりと私達のところまで歩いてきて、しゃがみこみ、子供たちの手をとって私と子供たちを交互に見つめながら口をひらいた。



「中川さん、今も頑張ってます。聴覚は最後の最後まで残ります。…パパ、きっと奥さんと麻美ちゃん達の声聞きたがってると思うよ。」



さっきまでの深刻な表情が思い出せないほど、穏やかな看護師さんの笑顔。しっかりとした口調で、ゆっくりと話す看護師さんの声が、聞こえた。驚くくらい、素直に受け入れる。自分の心臓の音が、ゆっくりとリズムよく聞こえてきた。子供達は、不安そうに私の顔を見る。


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