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空と海の間の君と僕
【青春 恋愛小説】

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空と海の間の君と僕-3

なんとか、空き地にアオイとオレは着いた。アオイのバカが余計なコトするから、めっちゃ汗ダクダクじゃねーか。身体が冷えたら、マジ、風邪ひきそーじゃんか。部室にカッターシャツの替え持って来てて、超大正解だな。
ふとアオイに目を向けると、ぼんやり東の方角から淡いパステルオレンジが世界を明るく照らすのを見ていた。
淡く明るい光りの中でやや乱れたショートボブや、赤く染まったほっぺが抱きしめたくなるぐらいアオイを可愛く飾っている。オレは思わず、唾を飲み込みアオイをマジマジと見つめてしまう。
きっと、朝と夜の境目の幻想的な空気がアオイを必要以上に可愛く見せてるんだ。そう自分に言い聞かせて、オレは軽くストレッチをする。
光りが無機質な青白いビルや家達を彩り、海に精気溢れさせるその時間をアオイはただ見つめている。オレはアオイのその幸せそうな表情を壊すのが恐くて、黙々とストレッチを続けた。


海は徐々に生命の息吹の輝きに包まれ、背後に聳える六甲山の頂をより威圧的に感じさせた。オレはその黒い夜の闇を纏ったままの六甲の峰をストレッチで振り返った瞬間に見ると、背筋がゾォッとした。
そのゾォッとしたイヤな感じをオレは払拭したくて、アオイに近づき、アオイの後頭部を軽く叩く。
「!?ったぁ〜!!!何にすんのよぅ!!!」
アオイはそう言いながら、オレにケリを入れてくる。
「ぎゃははっっ!!!やめろってぇ!!!ばーーか!!」
ケリをかわしながら、オレはダウンジャケットのポケットに手を突っ込み笑う。
「も〜!!いい加減にしてよね!!チョ〜、あんた、ムカつく!!!」
ムキになって、顔をすんげぇ赤くするアオイはオレにパンチを繰り出してくる。そんなアオイにムカつくよりも愛おしくなるオレはマジやばいかも。これって、めっちゃMじゃんか。オレ、変態かよ!?でも、アオイの笑顔はイヤなゾォッとした感じを一就して、ほんわかした気持ちにさせてくれる。
「かっっーー!!!めっちゃムカつく!!!頭、グッチャングッチャンじゃねーかよぅ!!!」
アオイはほんわか幸せモードにオレをひたらす隙をつくらせたくないのか、オレのケツを必要以上に蹴ってくる。
「いてーぞ!!!ゴルァァ!!!」
悲しいかな、オレはアオイのペースに巻き込まれて追っかけっこをしてしまっている。……なぁ〜んか、マジで自分が嫌になってくるわ。
ギャーギャー二人して喚きながら見る、鮮やかに空を染める淡いオレンジの朝陽と碧みが増して太陽が波を輝せる海。
オレは毎回この瞬間をちょっとダケ、幸せだなぁって実感するときかも。一番海と空がイイ感じになってる時を一番オレとアオイが近くにいる時間。彼女にもこの光景を見せてやりたいって全く思わないオレはきっと酷い男なんだろうな……。
「ねぇ、めっちゃキレーだよねぇ」
アオイはオレのケツにケリを食らわすのを止めて、オレと一緒になって高台から見える風景に心奪われてる。
「ちょっと、寒いの勘弁だけど、カンドーするね」
「うん。チョー感動」
アオイはそう言ってオレの着ているダウンジャケットの袖を握り締めた。その何気ない、甘えた様なアオイの仕草にオレはキュンとした。
キュンとしながら、抱きしめたい気持ちと、アオイに対する妙な罪悪感でオレは海の輝きがやや曇って見えた。
今のオレがアオイを彼女にしたら絶対エッチなコトしたり、お互いの粗探したり、つまんない束縛と嘘を重ねて、やがて『決別』という結論に達するんだと思う。
アオイを失いたくないから、アオイを生殺しにする意気地のないオレ。
こんなオレを好きでいて、お前、人生を無駄にしてない??
オレのダウンジャケットの袖にしがみつくアオイ。その必要以上にかわいく見えるアオイに発してはいけない言葉を発しないように唇を噛み締めて、目覚めていく巨大な港町を見つめた。





海は徐々に碧くなり、太陽の錦糸をより輝かせる。
そして、右手に見えるポートアイランドと、左手に見える六甲アイランドの薄暗くてはっきりしないビル郡の輪郭を朝陽は鮮明に描き出した。
オレンジから淡い金色に太陽は徐々に変化し、今日の始まりをアタシ達に宣言している。
アタシは渡辺クンのダウンの袖にしがみつき、時の流れが止まるのを祈ってるの。この時間が永遠に続くことなんてないけど、一秒だって無駄にしたくない。
でも、学校に行く時間がアタシと渡辺クンを裂こうと近づいてくる……。「いこっかぁ……」
アタシは搾り出すように渡辺クンに言う。
「……おう」
渡辺クンは低く呻くように呟くと、チャリのスタンドを蹴り上げた。
アタシはチャリの荷台に跨がる。そのアタシの頭を渡辺クンは軽くポンポンと叩く。
「おっこちんなよ」
ちょと渡辺クンは心配そうにアタシに言ってくれる。
「おぅよ」
アタシはそう言って敬礼をまねる。
その仕草に渡辺クンが目を細め、アタシはその表情にどきんとした。
渡辺クンが微笑みながらチャリに跨がり、地面を蹴る。チャリが坂道を転がり降りる。
山から海に吹く風と共に、ゴールのJRの駅までアタシ達が乗ったチャリは阪急の駅近くの商業地を翔けていく。
そして、アタシは風と一体化しながら、ここぞとばかりに渡辺クンにしがみつく。

――ごめんね。渡辺クン今カノ。ごめんね。渡辺クン。大好きなのに、我が儘ばっかり言っちゃって……――

大好き過ぎて、右も左も前後も天地も分かんなくなってきてるアタシ。
こうやって、ギュッとしがみつくのがイケないのかどうかもわかんなくなってるの。
みんなが少しずつ起き始める時間。そんな時間にアタシは渡辺クンとこうしていたっていいよね。時々、チャリは道路の檀差でガタッてなりながら、JRの駅まで風と一緒に目覚めたばかりの町を翔けていくの。
大好きだよ。こんなになりふり構わず、渡辺クンのこと振り回すぐらい大好きだよ。
言葉にできない気持ちをアタシは悲鳴にして、キャーキャー叫びながら住宅街を朝陽と一緒に起こしていく。

――恋とか愛してるとかそんな言葉、全然分かんないけど、渡辺クンとずっと一緒にいたい――



   〜〜了〜〜


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