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空と海の間の君と僕
【青春 恋愛小説】

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空と海の間の君と僕-1

ガーッッて、チャリで坂道をノンブレーキで降りる感じは最高だね!!緩いカーブと急なカーブの連続、お約束の信号フル無視状態でジェットコースターとマジ錯覚するね。ヤバイよ!!!
もー―っっオレ、マジでイッちゃうね!!!
後ろにのっけたアオイと一緒に空までマジに飛んでいけるよ!!!



朝陽がシルバーグレーの海に幾重にも折り込まれた錦糸の様に輝き、早朝独特の澄んだ空気と草木の息吹さえ聞き逃すことない静寂に包まれた世界。
オレはアオイと坂道を登り切った空き地までチャリを押しながら登る。簡単なそれぞれの儀式めいた深呼吸やらストレッチやら黙祷をする。
そして、ただひたすらゴールのJRの駅のロータリーまで降りていく。
これが、毎朝のオレとアオイとの絶対的な『決まり』である。
ちなみにアオイが納得しない理由でオレが決行しない場合はかなり理不尽で暴力的な制裁がオレを待っているが、アオイ自身の理由で決行しないのはノーペナルティーという暗黙の了解がかつてドイツを東西を分裂していた「ベルリンの壁」の如く、静かに威圧的にアオイとオレの間に横たわっている。
こうやってオレを完全に尻の下に敷くアオイは口を一切開かず、世間一般的な女子高生の行動パターン・リアクションを全てマスターしていたら、まぁまぁいい感じの部類に入るとオレは思う。
しかし、当のアオイは不毛なる完全なプラトニックな片想いをオレにしていて、オレ以外の男は残念な事に目糞・鼻糞並の存在でしかなかった。
そんな熱烈な片想いをアオイにされているオレは、健康な精神と肉体を持つ高校二年生の男子らしく、ゲームなのか純愛ゴッコなのか分からない幼稚なセックス込みの恋愛に励んでいた。
きっと、オレ達は第三者から見たら『性別を越えた熱い友情』で結ばれているのだろう。
しかし現実のオレ達は、アオイは100%の純愛をオレに捧げ、オレはアオイにエッチな事無しの都合の良い女を求めていて、アオイが男と付き合う事を露骨に嫌悪する男の我が儘と勝手満載の状態なのだった。そんな男の狡さとアオイの愛情の押し売りが詰まった関係のオレらは、今日も飽きもせず、夜が名残惜しそうに居座った1月の早朝にチャリを坂道の上に押し上げる。



「ねぇー、ねぇーベッさん。アタシ、どーしよっかぁ???」
アオイはチャリの荷台を押しながら、楽しそうに話し掛けてくる。
オレはアオイが話題にしようとする事が容易に予想できた。どうせ、アオイにちょっかいを出す馬鹿なヤローのことだろう。アオイがかわいらしい喋り方の時は、150000%の確率で馬鹿な男に口説かれた話に決まっている。「A組の濱田のコトだろう??」
オレは面倒臭そうにアオイに言った。
「え〜っっ、なんでぇわかんのぉ〜!?」
アオイはめっちゃ驚いて叫ぶ。つーか、濱田の阿呆がこのコト、吹聴してんだっつーの。とりあえず、ため息をして気持ちを落ち着かせる。
そして、オレは振り返り、アオイの伸ばしかけの真っ黒なショートボブの頭を鷲掴みにしてグシャグシャと撫で回す。
「あんだよ??」
アオイは奥二重だけど、大きな愛らしい目でオレを睨みつける。
「オレ、もーぜってぇお前の男関係にかかわんないからな」
少し怖じけながらオレは言う。
「そう言って、めっちゃ、関わってんじゃん」
アオイはそう吐き捨てると、オレの弁慶の泣き所を的確に蹴った。
「〜〜っっつぅ〜〜!!!」オレは蹴られた右足を抱えて咄嗟にしゃがみ込む。

ガシャッッ!!!

しゃがみ込むオレに無情にもチャリは倒れてくる。アオイがチャリを支えてくれる訳がない……。そして、騎乗掃射の様に罵声を浴びせてくる。
「あんたがアタシのコト振ったから、馬鹿が大挙して言い寄って来んのよ。てか、ぜぇんぶ、あんたのせーじゃん!!アタシの愛情、軽く遇いやがって!!!人のせいにするんじゃねーよ!!!タァーーコ!!!」
アオイは倒れたチャリの下になってるオレを完全無視で、ズンズン坂道を登っていく。
後頭部と背中と肩と腕と弁慶の泣き所の痛みを堪え、オレはチャリを起こしてアオイの後を追う。怒ってんのか泣いてんのかわかんないアオイの背中がやけに痛々しく、オレに狡さと勝手さの代償の大きさを感じさせる。オレは堪らず叫ぶ。
「待てよ!!!お前だって、ジューブン非があんだぞ!!!オレのせーにすんじゃねーよ!!!」
……我ながら情けなくなる。もう少しマシなコト言えるだろ、オレ。


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